照明の照度向上と省エネ、高機能反射板で同時に実現

微細発泡技術で最高水準の全反射率を実現

古河電気工業の発泡技術は、PS発泡(発泡スチロール)が世に出回り始めた1960年代初頭に誕生した。ケーブル被覆材の改質技術として、所有していたポリエチレン樹脂の化学架橋技術を活用し、ポリエチレンを発泡させる技術開発が中央研究所で始まったことがきっかけだ。その後、1964年に化学架橋発泡ポリエチレン「フォームエース」を販売開始。以来、1984年に折板屋根用途で不燃認定取得した無機物高充填フォーム「フネンエース」。同年に無架橋押出しPPフォームである「エフセル」と、保有する発泡技術を進化させ、世界に類のないさまざまな発泡製品を提供してきた。

1997年、開発に成功した超微細発泡PETフォーム「MCPET」も、そうした発泡技術の進化から生まれた製品だ。気泡を10µm以下に微細化することで改善される機械特性に着目し、樹脂の選定や技術の試行錯誤を繰り返して、世界で初めてPET樹脂の微細発泡に成功した。開発当初は、食品トレイなどの分野での拡販を試みたが、その機能で絶対的な優位性を示すことができなかった。しかし、展示会や顧客社内報などさまざまな媒体へのPR活動を通じて、光反射性能という従来の発泡製品にない機能を見いだした。

「MCPET」の光反射性能は、硫酸バリウム比で全反射率99%以上、拡散反射率96%以上という高い数値を誇る。光の拡散性能も併せて評価され、内照式看板や照明器具に光源削減とムラ改善を目的として採用された。ほかにも、液晶TVの液晶バックライト用反射板として、多くのメーカーに採用された実績を持つ。

この「MCPET」成功後も、古河電気工業は開発の手を止めなかった。原理的な反射メカニズムを追及した結果、気泡を1µmまで微細化できるようになった。現時点では全反射率、拡散反射率とも100%を超える。その後、多素材への応用としてポリカーボネートを微細発泡させた、「MCPOLYCA(エムシーポリカ)」を2013年に販売開始。高い成形加工性により、特に照明分野での採用が進んでいる。

照明の照度を約1.6倍、電気料金を半分にした例も

「MCPET」、「MCPOLYCA」という2つの「MCシリーズ」製品のメリットは、照明の照度向上と省エネだ。高い反射率でLEDモジュール数を削減しつつ、照度を向上させることができる。内照式看板への採用事例では、光源を3分の2に削減しても、平均照度を約1.6倍向上できたケースがあるほか、照明リニューアルではインバータ化と合わせて電気使用量を50%以上軽減できた。震災直後の電力供給不足の環境下では、省エネ商品として活躍した。

最近では、省エネを目的とした照明のLED化が加速しているが、LED照明には指向性が強く、照らせる範囲が狭いという特有の問題がある。この問題に対して、古河電気工業は「MCPET」の高い反射率と剛性、さらには成形性を活用。LED照明における課題を解決する新しい設計「Indirect design」の提案を進めている。これは、「MCPET」を立体成型し、光をできるだけ多く当てて、LEDの光を拡散させる仕組みだ。光効率の障害となる拡散板の透過率を向上できるほか、薄型化と軽量化が図れるというメリットがある。

また、近年では軽くて硬い特性を生かし、スマートフォンやタブレットのスピーカー用振動板心材として採用されている。さらに、優れた音響特性からイヤホンやヘッドホンの振動膜にも採用され始めた。今後も新たな分野への、さらなる活用範囲拡大が期待されている。