通信業界40年の常識を覆す。NTT仕様「高難燃・高柔軟ケーブル」+「大電流プラグインコネクタ」開発秘話古河電工グループが挑んだ社会課題解決と次世代インフラへの貢献
通信インフラの現場で長年の課題となっていた、「硬すぎる」動力ケーブル。その硬さが原因で工事に時間がかかり、深夜作業の負担増や、人手不足の深刻化を招いていました。この現状を打破するため、古河電工グループは、高難燃性を保ちながら飛躍的に柔らかい次世代ケーブルの開発に着手。NTTの厳しい要求条件をクリアし、誤挿入防止プラグインコネクタ(以下、PIC)と高難燃ケーブルをセットにした新製品を世に送り出しました。
このプロジェクトは、「高難燃性」と「柔軟性」という両立することが難しい特性の実現、そして誰も成し得なかった規格認定の取得という挑戦の連続でした。本記事では、この「大電流PIC」および「高難燃ケーブルCFⅢ」の開発に携わった古河電工グループのキーパーソンたちに、困難を乗り越えた技術力、一から仕様を確立した「ものづくり力」、そしてグループを横断した強固な「連携力」について伺います。
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本文中では、古河電工パワーシステムズ株式会社をFEPS、古河電工メタルケーブル株式会社をFEMCと略称で記載しています。
プロフィール
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所属はインタビュー当時のものです(2025年10月)
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- ふなみず だいすけ船水 大輔
- 古河電工パワーシステムズ株式会社第二事業部産業機材製造部 部長 1986年入社
ケーブル付PICの開発において初期段階から通信会社の型式承認取得に至るまで技術責任者として対応。その後、製造部に異動し、当該品の量産立上げに携わる。
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- せきの きよし関野 潔
- 古河電工パワーシステムズ株式会社技術開発本部産業機材技術課 課長 2000年入社
ケーブル付PICの型式認証取得後から現在まで技術開発を管理・推進。
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- やまだ だいすけ山田 大輔
- 古河電工パワーシステムズ株式会社技術開発本部産業機材技術課 主査 2008年入社
ケーブル付きPICの技術担当、初期段階から型式認証取得、量産立上、現在まで一連を設計~試験まで積極的に対応。誤挿入防止特許の発明者。
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- あべ たかし阿部 貴士
- 古河電工パワーシステムズ株式会社営業本部第二営業部新事業創出グループ 課長 2007年入社
2024年の異動からこのプロジェクトに参画。営業活動総括、新規顧客開拓、社内調整に従事。
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- もり としゆき森 俊之
- 古河電工パワーシステムズ株式会社営業本部第二営業部新事業創出グループ 2013年入社
当製品の企画立案、顧客への提案を実施。古河電工パワーシステムズと古河電工メタルケーブルをつなぐ、当該プロジェクトの立役者。
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- すじま ゆうじ筋間 裕司
- 古河電工メタルケーブル株式会社生産本部九州工場製造部生産技術課 課長 2004年入社
高難燃ケーブルCFⅢの開発当初にケーブルの選定など担当。また、量産開始後、専用組立ラインの立上げや古河電工パワーシステムズ製コネクタの支給形態の調整などに従事。
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- ふるや みつる古屋 満
- 古河電工メタルケーブル株式会社技術本部技術開発一部技術三課 2010年入社
電線・ケーブルの仕様検討や設計業務を担当。当該案件については、ケーブル設計だけでなく、被覆材料の開発にも従事。
誤挿入防止コネクタから始まった40年の常識への挑戦
——大電流PIC、および高難燃ケーブルCFⅢの開発背景から教えてください。
森(FEPS):通信設備の電力供給に使われる動力ケーブルの工事では、接続ミスによる停波事故が課題となっていました。抜いてはいけないコネクタを抜いたり、誤った場所に接続したりするミスが発生していたのです。
それを防止するために開発されたのが、誤挿入防止機能です。4パターンの溝の組み合わせでカップリングが決まり、同じ番号同士でしか接続できない仕組みになっています。このコネクタはNTTファシリティ-ズ様(のちに電力関連事業をNTTアノードエナジーへ継承)と共同開発したのですが、販路拡大のためにいくつか客先を回る中で、「身体負担が少なく、誤操作着脱できるものが良い」というニーズをいただいたのがきっかけでした。
整流器や直流分電盤といった機器は、寿命から15年ごとの交換が必要です。従来の端子では、狭い機器の内部まで手を伸ばし、大きなボルトを締めたり緩めたりする必要があり、時にはピットの下から見えない場所で作業することもありました。そこで、着脱が非常に楽なコネクタが求められることになりましたが、私たちはさらに、ケーブルも古河電工グループで製造できるので、「ケーブルごと変えてしまいましょう」と提案することにしたのです。
従来の規定ケーブルは非常に硬く、機器に接続する際には鉄の棒を曲げるほどの力で形を整えてから接続する必要がありました。昨今、重作業を敬遠する作業員が増え、携帯基地局工事の人材確保に苦労しているため、工事の作業を省力化し、迅速に完了させる必要がありました。
ところが、使いにくいとは分かっていながらも、規定を変えることは非常に困難でした。だから当初は、社内外の関係者から「それは無理だ」と言われましたが、当時の上司や後任に相談すると「できそうだからやってみよう」と言ってくれ、NTTの仕様をクリアできるだろうと確信を持つようになりました。

筋間(FEMC):私も、電話通信設備向けのケーブルは非常に硬いものだと認識していましたし、会社としても、以前はそのケーブルを納入していましたが、なかなか採算が合わなくなっているという事情もありました。ですからせっかくの機会ですし、付加価値をつけて新しいケーブルを開発できるのであれば、ぜひトライしたいという思いがありました。
実は、このプロジェクトが始まる以前に、風力発電に関する案件で、当社のケーブルを簡単に接続したい、というお客様からの要望がありました。その際に、このFEPS製コネクタを提案したところ、かなりの数が売れたんです。6人がかりで1週間を要していた作業が、2人程度で、わずか1日で完了できるようになったという実績があり、作業時間の大幅な短縮効果が非常に大きいと実感しました。

「高難燃」と「柔軟性」を両立させる技術開発の壁
——今回は、コネクタだけでなく、40年間仕様が変わらなかったケーブルの開発も必要でした。具体的にどのような課題があったのでしょうか。
筋間(FEMC):求められたのは、何度も繰り返し屈曲するような過酷な環境で使用されるケーブルであり、従来品よりもさらに柔らかいケーブルを開発する必要がありました。
森(FEPS):最も重要だったのは、NTTの仕様に適合したケーブルを開発することです。電話通信設備用には非常に厳しい基準が設けられています。今回求められていた仕様は、非常に高い難燃性、いわゆる「高難燃」です。下からバーナーで強力に炙っても燃え広がらないことが求められます。これは垂直トレイ試験というもので評価され、一般的なケーブルではまずクリアできません。その他にも、導体抵抗や絶縁抵抗など、さまざまな性能基準をクリアする必要がありました。そうした厳しい性能を、柔らかいケーブルで実現することが求められたのです。
古屋(FEMC):通常のケーブルでは、シースと絶縁体を別々に被覆して二層構造となるところを、一体化させて一層構造にすることで、柔らかい性能を持ちつつ、生産効率も良いケーブルの開発を目指しました。もともと私たちは柔らかいケーブルの開発を得意としていましたので、技術的な見通しはありましたが、NTTの仕様に準拠したケーブルは非常に特殊なスペックが求められるため、既存の技術をその仕様に適合させるための追加開発が必要不可欠でした。
はじめに、当社のラインナップにあった柔らかいケーブルとコネクタをセットで提案しました。その時点で難燃性などに課題があることは認識していましたが、まずは提案から始めました。しかし予想通り、従来のNTT仕様の硬いケーブルに求められる垂直燃焼試験に合格する難燃性を持ち、既存品と同等レベルの絶縁抵抗を持つ材料でなければならない、という要求がありました。
柔らかさを維持したまま難燃性の基準をクリアさせることが、非常に高いハードルでした。また、一般的に燃えにくい材料は絶縁抵抗が高くなりにくい傾向があるため、その点でも既存品と同等の性能を達成することが、材料開発における大きな課題となりました。ケーブルの被覆材料の開発については、古河電工の研究部門と連携して行いました。

厳しい要求条件をクリアする「ものづくり力」と認証取得
——NTTの仕様をクリアし、認証を取得するまでの道のりについて教えてください。
山田(FEPS):認証を取るためには、ケーブルの仕様を固める必要がありました。電話通信設備の要求する品質担保の基準や、運用上のルール、例えば型番の付け方など、仕様の非常に細かい部分を一つ一つ整合させていきました。もっとも苦労したのは、20年、30年という長期間の使用を想定した認証を取得するための環境試験です。本当に合格できるのかという点が一番の課題で、不合格になればどうしようかという不安は常にありました。
幸い、なんとか試験をクリアし、仕様を認めていただくことができましたが、仕様書には記載されていない部分の試験が特に大変でした。例えば、実際に電気が流れている状態でコネクタを抜き差しした際に、アークが飛ばないかといった、安全性に関わる試験などです。

森(FEPS):スイッチを切らずに通電された状態で抜き差しを行う試験の他に、作業者がケーブルに足を引っかけてしまった場合などの事故を想定した試験も行いました。
筋間(FEMC):そうした試験は、NTTアノードエナジー様と共同で実施しました。仕様書に記載されている項目だけでなく、実際の現場で起こりうる事態を想定し、その安全性を確認することに非常に苦労しました。とにかく私たちとしても、「自信をもって提供できる製品」を世に出すために徹底的に安全性を検証しました。その他にも、NTTの仕様書には製品保証に関する非常に細かい規定があり、契約上20年という長期の品質保証が求められるなど、厳しい条件もありました。
——40年間も仕様が変わらなかったケーブルについて、自分たちで新しい道を切り拓かれたわけですね。新しい仕様が正式に認められた時、率直にどのような気持ちでしたか。
森(FEPS):正直なところ、“やればできるものなのだな”と、本当にそう思いました。誰も手を出さなかった領域でしたが、実際にできてしまったのです。通信会社本体の固定電話・データ会社と携帯電話のグループ会社の両方で、この製品の仕様書番号が正式に下りた時は、本当に感無量でした。FEMCの営業担当者も、「あれが本当に取れるんですね」と驚きを隠せなかったほどです。
船水(FEPS):関係者の間ではかなり盛り上がりました。ただ、認定を取った翌月から受注が急増するなど、すぐに目に見える結果が出るわけではないので、認定が取れた段階では、社内の反応はそれほど大きくありませんでしたね。少しずつ効果が現れるにつれ、じわじわと浸透していきました。

筋間(FEMC):これまで私たちがNTTに製品を納入してきた際、半公的な組織では、昔からの仕様を変えない傾向が強いと感じていました。しかし、今回の成功例を機に、私たちは別のチームを組んで、電力会社さんにも同様の提案を始めました。電力会社さんも工事の人手不足やコスト増といった課題を抱えていますが、「仕様は変えられない」という状況でした。そうした中で、「提案すれば変えられる」という最初の成功例を作れたことは非常に大きかったと思います。
グループ連携と生産技術で実現した量産体制の確立
——検討段階では、承認後の量産体制についても見据えておく必要があったのでしょうか。
船水(FEPS):その通りです。ケーブルはFEMCで製造してもらうので、理想としては、組み立てまで一貫してお願いするのが最もスムーズです。そのため、プロジェクトの初期段階から、組み立て工程についてもFEMCに相談しながら進めていました。
古屋(FEMC):当初は、それほど大きな生産量ではなかったため、専用の生産ラインはなく、テーブルの上で手作業で組み立てるような状況からスタートしました。しかし、将来的に生産量が増加するという情報も得ていたため、専用ラインの構築が必要になることは分かっていました。
船水(FEPS):2020年にNTTファシリティーズ様(のちに電力関連事業をNTTアノードエナジーへ継承)の承認を得て、その年の4月から携帯電話部門会社向けに納入が始まりましたが、当初の数量は非常に少なく、月に100本にも満たない程度でした。ただ、先々、数量が増えることは言われていたので、ある程度の生産能力は確保しておく必要がありました。本格的に量産を意識し始めたのは、生産本数が1,000本を超えてきた2022年頃からです。
森(FEPS):その後、NTT東日本様への導入も決まりました。大きく伸びたのが2023年で、NTT東日本に本格的に採用されたのが大きかったですね。そこから量産体制がスタートしました。

——生産量の増加に合わせて、その都度ラインを再編していくのですね。
筋間(FEMC):それは日常的に行っています。しかし、今回の案件で最も困難だったのは、工場のスペースが全くなかったことです。現在この製品を製造している場所では、もともと全く別の製品を2つのラインで作っていました。スペースを確保するため、その2つのラインを1つに集約し、空いたスペースにこの製品の新しいラインをゼロから構築しました。このライン集約作業自体にも、かなりの労力を要しました。
私は一度この工場を離れていたのですが、戻ってきたらこのプロジェクトが始まっていました。最初にこの製品の加工作業を見たとき、「これは大変なことになるぞ」と直感し、量が増えるという話も聞いていたので、すぐに何とかしなければと思い、ラインの再構築を提案しました。既存のラインを集約してスペースを確保し、さまざまな治工具を揃え、古河電工の得意な部門にも協力してもらいながら、現在の生産ラインを築き上げました。
今では、このケーブル付きコネクタの加工に特化したラインになっています。現場作業者も工程が楽になり、効率が上がりました。具体的には、これまで1本加工するのに30分かかっていたものが、今では10分もかからずに完了します。

「やればできる」の精神とグループの連携力
——このグループや会社にどのような強みや要素があったから、このプロジェクトを成し遂げられたと感じていますか。
阿部(FEPS):私はプロジェクトの途中から参加しましたが、やはり推進力のある人が中心となって旗を振り、それに付いていく仲間がいたこと、そしてチーム一丸となって目標を共有できたことが大きいと感じています。

関野(FEPS):電線とコネクタという分野は接点が多く、同じグループ内でさまざまな企画に取り組んできました。こうしたグループとしての協働体制は常に意識しています。これからも良い製品を作っていくという文化を、皆で築いていきたいです。

船水(FEPS):量産の立ち上げという点では、個人的には関わった者としての強い気持ちが大きな力になったと感じています。苦労した製品だからこそ、自分が責任を持って量産という形まで作り上げることに強い使命感を抱いていました。
森(FEPS):協働体制についても、いきなり成功したわけではなく、徐々にステップを踏んでいきました。最初は都内大型商業ビルの案件でコラボレーションし、次に大型風力事業の案件を200基以上手掛けました。その過程で、毎月のように技術交流会を開き、お互いに言いたいことを言い合うような場を設けていました。そうした小さな成功体験を積み重ねていった結果、最終的に大きな成果につながったのです。
グループ内で端末とケーブルという製品を完結できる体制があったため、一緒にやることで多くのメリットが生まれました。正直なところ、それまではあまり仲が良いとは言えませんでしたが(笑)、このプロジェクトを通じて、協力すればこんないいことができるのだという良い前例を作れたのではないかと思っています。電話通信設備の案件が始まる前から、すでにチームとしての土台は出来上がっていたのです。
山田(FEPS):やはり電話通信設備向けの開発が始まる前に、風力事業の案件などを通じて、利害関係を超えた協力関係を構築できていたことが大きかったと思います。
古屋(FEMC):私がこのプロジェクトに関わり始めた時、FEPSと仕事をするのは初めてでしたが、周りは既に言いたいことを言い合える関係性ができていたので、非常に相談しやすい環境でした。特に山田さんは話しやすく、困ったことがあればすぐに相談できました。そして何より、森さんが「これを形にしたら絶対に売れる」という雰囲気を作ってくれたのが大きいです。
森(FEPS):「やればできるのだから、やろう」という、ただそれだけです。

社会課題の解決と今後の展望
——現在、製品が量産体制に入り、ニーズが拡大していくなか、今後の展望について聞かせいただけますか。
関野(FEPS):ケーブル付きのコネクタは、今回の電話通信設備の件も含め、私たちの中ではスタンダードな製品となりつつあります。現在はセットでのビジネスを展開しており、主に大きいサイズの製品を扱っていますが、今後は、より小さいサイズの製品開発も視野に入れています。この電話通信会社だけでなく他の会社さんにも、この小型コネクタとセットラインのノウハウを活かして展開していきたいと考えています。
阿部(FEPS):価格がネックになることはありますが、それでも「試作品で使ってみたい」といったお話を多くいただいています。その上で、製品の付加価値をお客様に評価していただき、採用につながっている状況です。
船水(FEPS):このケーブル付きコネクタという発想は、もともと「どうすれば売り上げを大きく伸ばせるか」という議論から生まれました。例えば、コネクタの販売数量を増やすだけでなく、そこでコネクタに付加価値を付けて売るという発想で、その付加価値として出てきたのが「ケーブル付き」というアイデアでした。今後も、こうした付加価値を付けた新しい提案を考えていけると面白いと思います。
森(FEPS):最近は防災の分野でも活用が進んでいます。非常用の電源設備ですね。非常時に迅速に外部電源を立ち上げる必要があるのですが、このケーブルは柔らかくて燃えにくく、着脱もしやすい。そのため、避難所や電力会社設備向け、さらに原子力関連施設の非常用設備として採用が進みました。特に六ケ所村の核燃料再処理設備では、すべての建屋で、当社のコネクタ付きケーブルが導入されています。
やはり、NTTの厳しい要求条件をクリアしているという事実は、非常に大きな信用につながります。そして「燃えにくいのに柔らかい」という特性は、幅広い現場で非常に強力な武器になります。これよりもっと大きいものや、逆に関野が言っていたような小型のもの、あるいは見た目が全く違うものなど、新しい挑戦をしていきたいです。

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