新たなグリーンエネルギーを社会に実装する。前例なき挑戦を続ける研究者たちの矜持(後編)

カーボンニュートラルへの貢献を視野に、北海道大学との触媒の共同研究を端にスタートした「グリーンLPガス(以下、グリーンLPG)プロジェクト」のメンバーにインタビュー。前例なき挑戦を続ける中で彼らが何を思い、何を乗り越えてきたのか。前後編にわたりご紹介します。後編にあたる本記事ではメンバーそれぞれの成長や思いについてお聞きしています。

  • 本記事は2025年7月28日に取材したもので、所属組織名も取材当時のものです。
  • せきね かおり関根 可織
    研究開発本部フロンティア統括部グリーンLPG開発部第1課 2013年入社

    実証プラント、商用規模プラントに向けたLPG触媒開発を担当。

  • かわまた ゆうき川又 勇来
    研究開発本部フロンティア統括部グリーンLPG開発部第1課 2020年入社

    ドライリフォーミング(DRM)触媒の技術開発、および実証プラント・商用規模プラントに向けたプロセス全体の改良検討を進めている。

  • たかはし ひろこ高橋 尋子
    研究開発本部フロンティア統括部グリーンLPG開発部第2課 2011年入社

    グリーンLPGのCI値(炭素集約度)の算出、および戦略担当として事業化を成功させるために、社外の様々な関係者と連携を図る。

  • ばんば ゆういちろう馬場 祐一郎
    研究開発本部フロンティア統括部グリーンLPG開発部第2課 2013年入社

    実証プラントにおけるオペレーション方法の策定、および実証試験の具体的な進め方を計画する業務を担当。

自分たちの議論が新しい世の中のルールを作っているかもしれない

——前例のない取り組みに挑戦する中で、ご自身はどのように成長を遂げていると感じていますか。

高橋:プロジェクトの難しさは理解していますし、やり遂げられるか不安に感じることもありますが、このプロジェクトは自社の技術だけで完結するものではありません。社外のさまざまな方々とやり取りをすることで、自分の知識や知見が広がっていくことに、大きな喜びを感じています。もっと言えば、このテーマを始めた当初の自分と比べると、できなかったことができるようになったという成長実感があります。

馬場:このテーマはいわば“新しい技術、新しいマーケットへの挑戦”です。つまり、基本的には白紙の状態からスタートします。そこからどのように線を描いていくかを考えるところから始まるわけです。こうした経験は、例えば入社したての頃や学生時代では到底できません。それが少しずつできるようになったことに、自分の成長を実感します。
重要なのは、分からないことを分からないと認識し、それを整理していく能力だと思います。仕様を構成する項目が何なのか、というところから考える必要があり、どの特性を伸ばすべきか分からない状態からスタートしました。明確な仕様が定められていて、その仕様に向かって技術を伸ばすというテーマではなく、まっさらな状態から始める挑戦だったからこそ、このような能力を身につけることが出来たと思います。

関根:「分からないことを分からない」と認めて助けを求める勇気と言いますか、その姿勢が非常に大事だと学びました。これからも、物怖じせずに突き進んでいきたいと思っています。

今回のように明確なゴールがない状態での開発や研究は、やはり一人で抱え込まずにチームで取り組むことが非常に重要だと感じています。心強い仲間がたくさんいますので、常に相談しながら進めています。

川又:現在私たちが開発している「グリーンLPG」に興味をお持ちのパートナーのなかには、まだ明確な目標を定められていないケースがあります。そうした場合、こちらから目標設定の提案をし、フィードバックをいただくといった双方向のやり取りが発生します。そのため純粋な研究開発能力だけでなく、お客様との交渉に近いコミュニケーション能力も求められ、その点で非常に学びのある経験を重ねています。

ビジネスモデルの構築については、単に技術が優れていれば良いというわけではないので、非常に難しいと感じています。企業である以上、ビジネスとして成立させなければなりません。そのため、研究という立場であっても、営業的な視点なども含めて視野を広げて考え、技術を磨いていく必要があると感じています。研究に没頭していた学生時代と比べると、一つ視座が上がったのではないかと感じています。

馬場:私たちのプロジェクトは0から1を生み出すフェーズなので、正直なところ「生みの苦しみ」を常に感じています。真っ白なキャンバスに絵を描くような作業ですから、それ相応の困難が伴います。しかし逆に言えば、真っ白だからこそ自由度が高いという側面もあります。当初は不可能だと思っていたことが、実はそうではなかったと気づくこともあります。

ビジネスモデルに関しても、何が正解かは未だに分かりません。私自身も、そしてチーム全体も、常に自問自答を繰り返しながら組み立てている最中です。何が正解か分からないからこそ、自分たちの議論が新しい世の中のルールを作っているのかもしれない、と感じる瞬間があります。「ルール」というと少し大げさかもしれませんが、何か大きな変化につながる議論をしているという実感はあります。

高橋:新しい標準を作ることは、これから不可欠であり、私たちが今まさに取り組んでいることです。また、先ほど馬場が申していた通り、常に考え続けることが重要だと思います。現時点で最適だと思えるビジネスモデルも、5年後にはそうではないかもしれません。ですから、「これで完成だ」と満足して事業をスタートしたとしても、環境の変化に合わせて柔軟にモデルを変えていけるように準備しておく必要があります。

加えて、進むべき方向性に迷った時は、なるべく具体的な見える形でパートナーと相談することが有効です。そうすることで、自分たちだけでは得られなかった新しい答えが返ってきて、それが貴重な情報となります。例えば、「Aという方向性で良いと思っているのですが、いかがでしょう」と尋ねたところ、「むしろBです」という回答をいただくこともありますし、「この製品なら、75%の特性を発揮すれば、要求特性を満たしますよね」と確認したら、「いや、30%で十分です」という意外なフィードバックが返ってくることもあります。このように、定量的に分かりやすい形で多くの人と議論を重ねることが、今のビジネスモデルの構築を前進させている重要な要素だと考えています。常に変化に対応できる状態を保ちながら、進めていくことが理想です。

誰かの生活を変えるかもしれないという可能性が大きなやりがいに

——前例のない道を突き進んでいる皆さんの原動力について教えてください。

高橋:日々の業務の中で「自分たちの議論が世の中をより良い方向に変えていく」というモチベーションは感じます。少し個人的な体験になりますが、私は入社前に震災を経験し、1週間ほど電気も水もない生活を送りました。原因は、大規模な送電線の基幹部分が被害を受けたことでした。街の中心部からそれほど離れていない場所に住んでいたにもかかわらず、そのような不便を強いられたのです。その経験から、持ち運び可能なエネルギー源がいかに重要かを痛感しました。被災した時、「LPGがあれば、いつも通りの生活が送れたのに」と心から思いました。

このプロジェクトで開発しているグリーンLPGは、まさにその課題に応えるものです。原料は家畜のふん尿だけでなく、都市ごみや農業残渣など、バイオガスを生成可能なさまざまな廃棄物にも応用できる可能性があります。こうした技術を組み合わせることで、災害時などに不便な思いをする人を減らせるのではないかと考えており、そこに大きな社会的意義を感じています。

馬場:現在、日本はエネルギーの多くを輸入に頼っていますが、日本国内でエネルギーを生産できれば、日本が産ガス国になれるかもしれない。これはエネルギーセキュリティの観点から非常に重要です。さらに、これまで廃棄されていたものからエネルギーを創出することで新しい産業が生まれ、地域の雇用創出にも繋がります。脱炭素化という側面だけでなく、地方創生という面でも大きく貢献できると考えています。一つの町をより良くするところから、世の中を変えていけたら嬉しいです。自立した街づくりを増やしていく、というイメージですね。

実際に北海道の方々と話をしていると、私たちのグリーンLPGの技術に対する大きな期待を感じることが多々あります。このような地産地消型の街づくりを、日本全国、さらには世界に広げていきたいと考えています。

関根:究極的には「自給自足」の実現が目標なのかなと考えています。地元の資源でエネルギーを賄えるという点は非常に重要です。また、LPGは既に各家庭で利用されているインフラなので、新しいエネルギーにスムーズに移行できるという利点もあります。地域でのエネルギー自給自足が実現できれば、素晴らしいことだと思います。

誰かの生活を変えるかもしれないという可能性は、大きなやりがいに繋がっています。実際に自治体の方々とお話をする機会もあり、その度に期待を実感し、身が引き締まる思いです。

川又:少し夢のある話をすると、この技術はこれまでエネルギーと見なされてこなかったものをエネルギーに変えることができます。世界では今も紛争が絶えませんが、もし石油資源がない国や地域でもエネルギーを自給できるようになったら、地政学的な意味でも、世界平和に少しでも貢献できるのではないかと、壮大ながらも考えてしまいます。

多くの人々の当たり前の日常生活を支える技術を提供し続ける

——古河電工の文化や強みが、このプロジェクトの推進にどのように影響していると感じますか。

川又:私が感じるのは、「チャレンジしやすい雰囲気」があることです。特に私たちの部署では、「失敗を恐れずに挑戦しよう」という文化が根付いています。具体的には、困ったときに部署の垣根を越えて助け合う風土があります。「困っています」と声を上げれば、分析部門や営業部門など、他部署の人たちも快く相談に乗ってくれます。このような縦割りではない、横の繋がりと柔軟な対応力が古河電工の会社としての大きな強みであり、良い文化なのだと感じています。良い人が多いのかもしれません。

関根:誰かに相談すれば、みなさん自分の時間を割いて親身になって助けてくれます。本当に優しい人が多いと感じます。そうした姿勢に触れると、自分も他の誰かにそうありたいと思うようになり、良い循環が生まれているのかもしれません。

馬場: 当社には「素材力」という強みがありますが、その根底にあるのは、2人が言ったように「チャレンジを歓迎する風土」だと思います。だからこそ、時折、飛躍的な技術革新が生まれるのだと思います。担当者レベルで「このロジックで試せばうまくいくかもしれない。やらせてください」と手を挙げたとき、会社はそれを否定せず、「やってみなさい」と後押ししてくれます。その姿勢が、結果として大きな技術的ジャンプアップを生み出し、当社の強い技術力に繋がっているのではないでしょうか。挑戦を許容する風土こそが、古河電工の技術力を支えているのだと思います。

高橋:このテーマが始まった当初、当社の解析技術センターの協力が不可欠でした。そこでは物質を詳細に観察し、その正体を突き止める専門家たちがいます。古河電工の社内では日常的な作業でしたが、社外の専門家から見れば非常に特殊で高度な解析結果が得られており、大変高い評価をいただきました。このように古河電工には、普段は意識せずとも、先輩方から脈々と受け継がれてきた高い技術力が蓄積されています。チャレンジできる風土と、長年培われてきた技術力とが結実して、このテーマが私たちに巡ってきたのではないかと感じています。

——古河電工の「技術力」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

高橋:やはり、140年近くもの間、私たちのミッションが変わらずに続いてきた点にあると思います。例えば、140年前は銅を扱っていましたが、それが電線になり、さらに光ファイバへと進化してきました。その歴史の延長線上に、今回のグリーンLPGがあります。一見すると突然のようですが、根底にはエネルギーを伝えるという共通点があります。多くの人々の当たり前の暮らしが、安心・快適につづくための技術や取り組みが、私たちの存在意義であると捉えています。
以前、海外出張に行った際に、全く別の業種の方から「あなたは古河電工の方ですか」と尋ねられ、「あなたの会社のケーブルは、敷設してから一度もトラブルがありません」と言われたことがあります。私はケーブルの担当ではないので詳しくは分かりませんでしたが、そのように評価していただいたことを誇りに思いました。これは、過去の社員の仕事が現代にもつながり、社会的に私たちの仕事を進めやすくしてくれている部分でもあると思います。

——ということは、今皆さんがされているお仕事も、きっと何十年後かに同じように評価されることになるのでしょうね。

馬場:そうかもしれませんね。光ファイバも電線も、人々の生活に溶け込んでいます。ですから、私たちの役割は、「人々の、安全・安心・快適な生活を実現する」ことにあると考えています。古河電工の名前が前面に出ずとも、縁の下の力持ちとして世の中を支える会社でありたいと思っています。

2030年の実用化に向けて、足元の研究を着実に進めていく

——今後の展望について教えてください。

馬場:今回は私たちにとって初めてのスケールアップという位置づけになります。最終的に1000トン以上のプラントを目指していますが、今回はその前段階として技術をしっかりと実証し、プロセスに問題がないことを示すことが、ここ1~2年の大きな目標です。

実証プラントは現在建設中で、来年、北海道の鹿追町に完成予定です。現在の進捗としては、プラントの基本的な構想やプロセスの設計は固まっています。順調に進んでいるかというと、それは正直なところ、実際にやってみないと分からない部分があります。世界で初めてのプラントを動かすわけですから、入念にチェックしていく必要があります。実際に稼働させてみて初めて分かる課題も出てくると思いますので、一つひとつの課題にしっかりと向き合い、解決していきたいと考えています。

川又:私には二つの目標があります。一つは今、馬場が申し上げたように、足元の検証を確実に進めることです。もう一つは、現在の技術力をさらに向上させることです。お客様により良い品質の製品をお届けするためには、触媒やプロセスになお改良の余地があると考えています。足元の検証を進めつつ、その先の未来を見据えて、さまざまな改良に取り組んでいるところです。

関根:まずは実証プラントの立ち上げを確実に行うことが最優先です。そして将来的には、国内でのエネルギーの自給自足に貢献できればと考えています。その実現のためには、単にプロセスを確立するだけでなく、会社として利益を確保する必要もあります。そのためにはまだまだ改善すべき点が多く残されていますので、一つずつ着実に取り組んでいきたいですね。

高橋:私たちは2030年の実用化を目標に掲げています。現在は足元の研究を着実に進め、実験室レベルで成功した反応を、どうしたらスケールアップしても実現できるかに注力しています。しかし同時に、川又が言ったように、現在のプロセスが必ずしもベストではない可能性も考慮しなければなりません。そのため、社内外の専門家の意見も取り入れながら、より良い方法を模索する作業を並行して進めていく必要があります。

目指すべきは、2030年に、このインタビューの場にいらっしゃる皆様のお手元にグリーンLPGが届くような製造体制を確立することです。それを実現していきたいと強く思っています。

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