モバイル通信端末用高周波フレキシブル基板(FPC)とは
フレキシブル基板(FPC)は、薄い誘電体基材の上に回路を描いた配線基板です。柔軟性に優れるため、屈曲が可能で、機器内の三次元配線や、可動配線に対応できます。また薄いため、機器内への配置に必要なスペースが小さい利点もあります。モバイル通信端末やディスプレイなど、身近な電子機器に数多く使われており、電子機器の小型・軽量化には欠かせない存在です。
モバイル通信端末においては、内部の至るところでフレキシブル基板(FPC)が使用されていますが、その中の一つに、アンテナモジュールとメイン基板をつなぐ伝送路が挙げられます。電波の送受信を担うアンテナモジュールは、通信を効率よく行うため、モバイル通信端末の端部に配置されることが多く、一方でメイン基板は、端末内部に配置されることが多いため、その接続をフレキシブル基板(FPC)が担います。5Gモバイル通信においては、Sub6やミリ波といった高周波数帯が採用されており、Beyond5Gや6Gといった次世代モバイル通信においては、更なる高周波化が進む見込みです。このため、アンテナモジュールとメイン基板をつなぐフレキシブル基板(FPC)には、高周波伝送が求められます。
モバイル通信端末用高周波フレキシブル基板(FPC)の課題・ご要望
フレキシブル基板(FPC)の伝送損失の増大
前述の通り、5Gモバイル通信や、Beyond5Gや6Gといった次世代モバイル通信において、アンテナモジュールとメイン基板をつなぐフレキシブル基板(FPC)には、高周波伝送が求められます。高周波数の電気信号を伝送する場合、伝送線路における伝送損失の増大が問題となります。
伝送損失とは、配線基板に交流電気信号を流す際、電気エネルギーの一部が熱エネルギー等に変換されることで生じる、信号の減衰のことです。伝送損失は、基板の信号線路として使用される導体の抵抗や表皮効果による導体損失、導体の表面や基材となる誘電体との界面における信号散乱による散乱損失、基材となる誘電体における誘電損失、の3つから成ります。このうち、誘電損失は下式により計算されます。
- αd:誘電損失
- K:比例定数
- f:周波数
- εr:比誘電率(Dk)
- tanδ:誘電正接(Df)
この式から、周波数fを高くすると、誘電損失が増大することが分かり、その結果、伝送損失も増大することになります。この高周波化に伴う誘電損失の増大を抑制するためには、基材となる誘電体の比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低くすることが重要となります。
フレキシブル基板(FPC)の薄肉化
モバイル通信端末の薄型化や、高機能化に伴う内部部品の高集積化に伴い、フレキシブル基板(FPC)の薄肉化が望まれています。フレキシブル基板(FPC)の薄肉化には、構成する誘電体基材を薄くすることが有効ですが、この時に問題となるのが、伝送線路の特性インピーダンスの変化です。
特性インピーダンスは、電気信号が伝送線路を流れる際の、電圧と電流の比です。電気信号の発信側と受信側を伝送線路がつなぐ場合、それぞれの特性インピーダンスが一致(整合)していないと、その境界で電気信号の一部が反射し、信号の損失や、反射した電気信号との干渉による信号の劣化が生じます。(下図)
フレキシブル基板(FPC)を伝送線路として使用する場合、特性インピーダンスは、誘電体基材の比誘電率(εr、Dk)と厚さ、回路導体の厚さと幅によって決まり、特性インピーダンスを維持しながら誘電体層を薄肉化しようとすると、回路導体の狭幅化を伴うことになります。回路導体の狭幅化が進行すると、FPCの製造工程において、回路形成が難しくなる問題が生じ、誘電体層をより薄肉化することが困難となります。
この薄肉化に伴う回路導体の狭幅化を抑制するためには、特性インピーダンスの維持に対し、誘電体基材の比誘電率(εr、Dk)を低くすることで対策することが重要となります。
Smart Cellular Board(SCB)活用の効果
フレキシブル基板(FPC)の伝送損失を低減
Smart Cellular Board(SCB)は、古河電工の独自技術であるSCB発泡技術を利用することで、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった、従来発泡が難しい耐熱性樹脂の発泡を実現しました。
図は、ソリッドな樹脂材料とSmart Cellular Board(SCB)を比較した、誘電マップです。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡により、母材となる樹脂に空気を取り込むことで、母材の持つ比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を空気に近づけ、低減することが可能です。特に、比誘電率(εr、Dk)においては、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満を実現しています。
フレキシブル基板(FPC)の伝送損失を低減するにあたり、誘電損失の観点からは、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低減することが重要です。従来のソリッドな樹脂材料においては、比誘電率(εr、Dk)は樹脂種によりおおよそ決まるため、低減の難易度が特に高く、誘電正接(tanδ、Df)の低減に主眼が置かれることが多いです。
一方で、Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)をどちらも低減することが可能で、両方向から、誘電損失を低減することが可能です。図は、従来、モバイル通信端末用高周波フレキシブル基板(FPC)に使用されるm-PIとSCB-PPSのそれぞれを、誘電体基材として用いたときの、伝送特性をシミュレーションで比較した結果です。SCB-PPSを使用することで、伝送損失の低減が期待できます。
フレキシブル基板(FPC)の薄肉化と回路サイズの維持を両立
Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満の比誘電率(εr、Dk)を実現しています。
モバイル通信端末用高周波フレキシブル基板(FPC)の薄肉化にあたり、従来のソリッドな樹脂材料を誘電体基材として用いる場合、特性インピーダンスを維持するため、回路導体を狭幅化する対応が必要となります。しかし、回路幅が狭くなると、めっきやエッチング等での回路形成における難易度が上がり、製造することが難しくなります。
一方で、Smart Cellular Board(SCB)を誘電体基材として、フレキシブル基板(FPC)を薄肉化する場合、基材の比誘電率(εr、Dk)を低減することで特性インピーダンスを維持でき、回路導体の狭幅化を抑制することができます。この対応により、フレキシブル基板(FPC)の更なる薄肉化を、実現することが可能になります。
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