古河電工×日亜化学 青色レーザモジュール共同開発対談(後編)共同ラボ「CELL」設立と“当たり前”の共同作業が築く未来
製造拠点を古河電工の千葉事業所から日亜化学の本社工場(徳島)へ移転するという異例の協業を経た両社。次なる一手は、中部地区に共同ラボ「CELL(Cutting-Edge Laser processing solution Lab.)」を設立することでした。思い切った決断の背景には、事業へのスピード感と「1+1」を遥かに超える成果を生み出すという強い意志が見受けられます。この拠点は、いかにして両社のメンバーの一体感を醸成し、日本のレーザ技術を世界へ発信する象徴的な場所になろうとしているのか。その経緯と未来への強い意志を、プロジェクトのメンバーが語ります。
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- ひゅうが かずあき日向 和昭
- 古河電気工業株式会社営業統括本部レーザ応用事業部レーザ応用1部 部長 1998年入社
Furukawa FITEL Thailand Co., Ltd. (FFT)駐在から帰任した2023年度より参画。開発から事業フェーズに移行する段階で、日亜化学の企画部門とコミュニケーションを取りながら仕事を進めている。
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- かやはら たかし茅原 崇
- 古河電気工業株式会社営業統括本部レーザ応用事業部レーザ応用1部アプリケーション課 課長 2006年入社
CELL立ち上げに関与し、施設のスペックや工期について、日亜化学と議論を交わしながら進めてきた。現在はラボに常駐し、運営に携わる。
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- いしぐろ たかひで石黒 敬英
- 日亜化学工業株式会社第二部門LD事業本部KSプロジェクト 部長 2015年入社
CELLに勤務し、古河電工のメンバーとともに施設の運営に従事。顧客と一緒にレーザ加工の実験を行うなど、実践的な業務を担当。
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- はま あつとも濵 敦智
- 日亜化学工業株式会社第二部門LD・UV企画部 部長 2000年入社
共同開発における契約の枠組み検討、開発製品の販売企画、およびCELLの立ち上げにも関与。
事業化を加速させる共同ラボ「CELL」の設立
——CELLはどのような経緯で設立されたのでしょうか。
茅原(古河電工):もともとは、青色レーザとは関係なく始まりました。古河電工では、産業用ファイバレーザの販売を強化するにあたり、自動車部品関連を扱うお客様の中心地である中部地区、特に豊田・刈谷地区に拠点を構える必要性を感じていました。以前は千葉で顧客対応をしていましたが、お客様のいる中心地へ行こうということで、2023年頃から土地を探していました。
当時、豊田地区に当社のラボが1室だけあり、そこに機材を試しに置いてみたところ、その地域のお客様が、まるでコンビニに立ち寄るかのように頻繁に訪れてくださるようになりました。ですから、これを機に、もっと本格的で大きなラボを建設しようと決意し、土地探しを始めました。
しかし、ラボを建設できる準工業地域は、空きが出るとすぐに押さえられてしまい、土地が全く見つからず、結局、2年近く探しまわることになりました。そんな中、不動産業者と粘り強く交渉を続けていた担当者から、「オフィスビル建設用の土地を見つけた」という連絡が入ったのです。

濵(日亜化学):当初はそれぞれが2フロアずつ借りて、ビル全体を両社で活用しようという話を進めていました。その過程で、当社社長から「レンタルや賃貸ではなく、この建物を一棟まるごと購入してしまおう」という提案が出されました。
その背景として、賃貸では今後の活動や機能強化の際にさまざまな制約が生じる可能性があるという考えがありました。そこで、一棟買いをして自由にレイアウトできるようにし、この拠点で求められる機能を最大限に発揮できるようにしたい、という思いからこのような提案に至りました。

——古河電工としては、それをどう受け止めたのでしょうか。
茅原(古河電工):私たちが扱う製品には、ファイバレーザの他に青色レーザもありますので、将来的には両方をこの拠点に置いて事業を進めていくのだろう、というイメージで準備をしていたため、このご提案を前向きに捉えました。
日向(古河電工):現在は、事業が本格化するフェーズに入ってきたと考えています。世界的な「電動化」の流れを捉え、この青色レーザを共同で開発しましたが、現在その電動化の動きは少し減速しています。事業全体として、最終的な製品は私たちの発振器となりますので、その販売に責任を持つべきです。しかし、期待通りの成果が出ていないのが現状で、それは日亜化学も同様に感じていらっしゃることだと思います。
そこのビジネスを成功させるためには何が必要かを考えた時、やはりお客様に実際の加工を見せるラボが不可欠です。これだけの規模のラボを一社で実現するのは困難でしたが、日亜化学から「一緒にやろう」とお声がけいただき、この施設が実現しました。
協業というと、普通は「1+1」が「2」になるどころか、それ以下になってしまうケースも少なくありません。しかし、私たちが目指しているのは、「1+1」が「2」をはるかに超える成果を生み出すことです。その意味で、このCELLは両社の一体感を象徴する非常に重要な存在であり、今後さらに発展させていかなければならないと考えています。

濵(日亜化学):事業として成功させようという意志には、明確なきっかけがあったと、私なりに解釈しています。開発によって製品が生まれ、ものづくりの段階に入るところで、古河電工千葉事業所にあった製造拠点を本社工場に移転していただいたのが、まさにそのきっかけに当たると思います。その大きな決断をしていただいた後、今度は「しっかりと製品を売っていく」段階で、日亜化学としても何か貢献したいという強い思いがありました。それが、販売面で協力させていただいている背景にあると考えています。
日向(古河電工):両社に共通しているのは、「技術を大切にする」というベースの部分で、そこは非常に近いと感じています。ただ、事業に対する考え方には違いがあります。古河電工は歴史が長いこともあり、良くも悪くもコンサバティブな面があります。それに対して、日亜化学は事業への投資の仕方など、非常に思い切った決断をされる。その点は、異なるカルチャーを持っていると思います。
濵(日亜化学):そうですね、日亜化学は投資に対しては積極的に行う会社かもしれません。やはり事業においてはスピード感を重視しており、そのための判断は迅速に行うようにしています。
茅原(古河電工):施設の開所式は2024年の11月末でしたが、もともとオフィスビルとして購入した建物をラボとして使用するため、内装工事にかなりの時間が必要でした。実際に工事が完了し、機材が搬入され、ラボとして本格的に運用を開始できたのは、2025年の5月末からです。

運用を始めると、当然ながらお客様が来所されます。古河電工がお付き合いのあるお客様のところに、日亜化学も同席するということになるわけです。すると、お客様から「なぜ日亜化学がいるのですか?」と尋ねられることもありました。今でこそ「私たちは一緒にやっています」と堂々と説明できますが、運用開始当初は、この2社の関係をいかに融合させるかが課題でした。ここで得られた成果はレーザ本体にフィードバックされ、さらに良い製品が生まれる。そこに日亜化学が参加する意義があるのだと。もはや説明するというより、「当たり前に一緒にいる」という雰囲気を作り出し、「なぜいるのだろう」と疑問に思わせないような流れを作ろうとしています。その一つとして、皆で同じユニフォームを着て、一体感を演出しています。

——お客様の反応はいかがですか。そうした説明を通じて、お客様の受け止め方に何か変化は感じられますか。
茅原(古河電工):最初は、「なぜ日亜化学が?」という反応がありましたが、最近ではあまり言われなくなりましたね。当初に比べれば疑問を持たれる感覚はだいぶ薄まり、「ああ、一緒にやっているんだな」と自然に受け止めていただけるようになったと感じています。
石黒(日亜化学):古河電工がそうした意識で、「今度こういう実験があるので一緒にどうですか」と私たちを積極的に巻き込んでくださるので、こちらとしても非常に参加しやすい環境です。

——一緒にいるからこそ生まれる価値について、考えをお聞かせください。
茅原(古河電工):ラボの活動自体は、正直なところ私たちだけでも十分に可能です。その中で、あえて一緒にやることの意義は何か。最近特に実感しているのは、一緒にいることで、次世代レーザの開発に関する意思疎通が、当たり前のようにスムーズに進むということです。
日向(古河電工):CELL設立プロジェクト当初は、共同でラボを運営する意義を関係者の全員が、必ずしも理解・共感できていない状況でした。時間をかけて対話を繰り返し、今もまだ十分とは言えませんが、両社は着実かつ急速に混ざり合ってきていると感じます。最終的には、茅原さんが言ったように「一緒にいるのが当たり前」という状態になることが、私たちの目指す姿です。
茅原(古河電工):プロジェクトが始まる際、両社の上層部からは「垣根なく、腹を割って話し合え」という指示がありました。つまり、お互いに本音で向き合い、どう考えているかを率直に伝え合っていいのだと。その言葉があったからこそ、私たちが持つノウハウや知見をすべてオープンにし、覚悟を決めて取り組むことができました。もしあのような後押しがなければ、もっと遠慮がちな関係になっていたかもしれません。

「1+1」を「100」にする未来への挑戦
——この事業の未来について教えてください。
- ※前編に登場された4名の方にもコメントをいただきました。
日向(古河電工):まず、これまで築き上げてきた日亜化学との一体感を、今後さらに醸成させていきたいと考えています。CELLのような形態の施設は、日本中を探しても他にはないと思います。今後は、「日亜化学と古河電工」という枠組みさえも取り払い、より大きな視点で活動していきたいです。日本のレーザ技術は世界から少し後れをとってきましたが、昨年、世界最高レベルの青色レーザを実現し、青色レーザとして世界のトップに躍り出ました。この場所を企業という枠を超えた共創の場と捉え、日本の技術力を世界に発信し、リードするような、そして『先進レーザ加工のことなら、CELLに聞いてみよう』と思っていただけるような拠点に成長させていきたいと考えています。
事業の出発点は自動車関連向けでしたが、レーザ加工技術そのものは、まだ社会に十分に実装されているとは言えません。むしろ、これからさらに活用が広がっていく、非常にポテンシャルの高い技術です。この青色レーザも、私たちがまだ知らないような新しいアプリケーションが数多く眠っているはずです。CELLを中心とした共創を通じて、お客様とともに、新たな可能性を開拓していきたいと思います。
茅原(古河電工):この拠点は、常に世界最先端の技術が集まる場所にしたいと考えています。常に最新の設備を導入し続けることが重要です。これは古河電工1社だけでは難しい挑戦ですが、日亜化学と連携することで可能になります。私はこの勢いに乗って、常に最新技術を取り入れ、ここを新たなトレンドを発信できる施設にしたい。そして、世界中から「日本のCELLはすごい」と言われるような場所に育てていきたいです。

石黒(日亜化学):ここは、何か新しいことを生み出せる場所なのだと確信しています。将来的には、「レーザ加工といえばCELLだ」と認知されるような、ブランド力のある場所にしていきたいです。お客様との交流を通じて、両社の若いメンバーが少しずつ融合してきているのを感じます。この流れを絶やすことなくもっと深く融合し、ブランドを広めていきたいですね。
濵(日亜化学):古河電工との取り組みを通じて、私たちの技術力は向上し、両社の信頼関係も確固たるものになりました。事業の地盤は固まったので、これからは製品をしっかりと売っていくフェーズです。このCELLという場所で、それを実現していきたいです。そして、この2社だからこそできることは、他にもまだたくさんあるはずです。CELLで終わるのではなく、市場で勝ち抜くための次の打ち手を、この2社で考えていきたいと思います。

早水(古河電工):私は現在、このプロジェクトの最終製品である発振器を製造する立場にあります。CELLという両社のブランドを大きく育て、お客様に使っていただく製品を作る。その製品の中には、日亜化学が作った青色レーザモジュールが組み込まれています。日亜化学のモジュールを作る思いと、古河電工の製品を作る思い。その2つを繋ぎ、お客様に「良いものだ」と思っていただける製品を、このCELLを通じて提供していくことが、私の使命だと考えています。
築地(古河電工):私はこの仕事から離れて1年以上経ちますが、今日皆さんと話していて、両社の信頼関係がさらに発展的に深まっていることを感じ、非常に嬉しく思います。この強固な関係は、この事業だけでなく、他の分野でも新たな展開を生み出す可能性を秘めていると感じます。会社間の信頼は大きな財産です。この関係を大切にしながら、さまざまなことに挑戦していけるのではないかと期待しています。
大森(日亜化学):長い時間と、両社の多くのメンバーの尽力によって、私たちはようやくスタートラインに立つことができました。開発はこれからも挑戦の連続ですが、本当の正念場はこれからです。「1+1」を「2」にするのではなく、「100」にするような成果を目指し、この事業を必ず成功させたいです。私は現在、この開発を担う部署の責任者を務めていますが、この成功の暁には、両社の若いメンバーにとって、このCELLが憧れの場所となるような、象徴的な存在に育て上げていきたいと考えています。
長濱(日亜化学):古河電工との共同開発は2017年に始まり、今年で9年目になります。今では古河電工のエンジニアの方々とは、社内のニックネームで呼び合うほど親しい関係になりました。プロジェクト当初から、両社には「オールジャパンで世界に勝ちたい」という共通の思いがありました。その結果、輝度や品質において世界ナンバーワンの製品を生み出すことができました。今後は、この取り組みをさらに発展させ、製品をしっかりと市場に届けていきたい。また、この強固な関係を活かして、また何か新しい取り組みができないかと考えています。

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