国内最大となる洋上風力発電設備の海底ケーブルを布設。未知なる領域を切り拓く古河電工の組織力(前編)

風車25基で最大出力22万キロワット、国内最大となる洋上風力発電設備「北九州響灘洋上ウィンドファーム」。古河電工は、国内屈指の超高圧海底ケーブルメーカーとして、海底ケーブルによる送電システムの設計・製造から据付工事までを一貫して担っています。本プロジェクトにかかわったメンバーが、何を思い、何を乗り越えてきたのか。メンバーの“リアルな声”を前後編にわたりご紹介します。前編にあたる本記事では、現場責任者をインタビューしました。

  • 本記事は2025年6月20日に取材したものです。なお、従業員の所属組織名は、2026年4月時点のものです。
  • かいづ ひろし海津 裕
    エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 1993年入社

    入社以降、一貫して海洋工事に従事する。本プロジェクトでは現場責任者としての役割を担う。

いよいよ日本にも到来、大規模洋上風力の波

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、国策として位置づけられている洋上風力発電。発電所の建設が全国各地で相次いで計画されているなか、大きな期待と注目が集まるのが北九州響灘洋上にて本格稼働した「北九州響灘洋上ウィンドファーム」だ(2026年3月2日運転開始)。海上に設置された風車25基で最大出力22万キロワットを生み、洋上風力発電設備としては国内最大となる。

「1基あたり9.6メガワットの発電能力をもつ風力発電機を25基、合計で22万キロワットの電気をつくることができる設備です。これは北九州市の4割にあたる、約17万世帯分の一般家庭に電力を供給できると見込まれているものです。私たちは、この洋上風力発電所に欠かせない海底送電ケーブルシステムの製造から施工までを一貫して担当しています」というのは、本プロジェクトで現場責任者の職務を担う海津だ。

エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 海津 裕

従来の洋上風力発電所では、風力発電機と陸の送電設備をつなぐ海底ケーブルの電圧は6.6~33キロボルトだった。しかし風力発電機が大型化して発電量が増えてきたことから、近年、送電電圧がより高い66キロボルト仕様のケーブルが使用されるようになった。

「電圧が高くなると、電気を安全かつ安定して送るために、海底ケーブルの製造や布設工事、接続工事のすべてにおいて、これまで以上に高いレベルの品質管理が求められます」

事業者とゼネコンの間で本プロジェクトの計画が持ち上がった段階から、当時すでに多くのパイロットプロジェクトで実績を積み上げていた古河電工に声がかかる。そして、現場責任者としてアサインされたのが海津だった。当時は工事会社に出向していたが、声がかかったときには感慨深いものがあったという。

「当社は、2003年に北海道に建設された日本初の洋上風車の海底ケーブル工事を受注しました。その頃から、既にヨーロッパでは洋上風車が盛んになっていたため、日本にもその波がすぐに来るだろうと個人的に考えていました。しかし、実際には日本での洋上風力発電所の開発は予想よりも遅れ、その転機となったのが、東日本大震災でした。今回の建設工事は、“日本もようやくここまできたのか”という感慨が大きかったです」

机上検討から海の現場へ。若手に託した海底ケーブルルート調査

このプロジェクトの大きな特徴は、入社数年の若手従業員も多くプロジェクトに参画していることだ。古河電工は入社3年目のメンバーに、本プロジェクトの設計、およびルート調査を託し、まずは机上検討からスタートさせた。

「まず、机上では主に海底ケーブルのルートや防護工法、費用関係を検討します。ルートについては事業者から支給された情報や、公開されている地質図を活用。ケーブルについては、布設後20年間をいかに維持できるかの検討がとても重要になります。基本的には海底に埋めますが、その埋め方なども検討が必要です」

机上検討を開始した当初は実感がなかなか湧きづらいものの、現場で実際にルート調査を実施、さらに詳細検討を進めるにつれて、それまでは見えていなかったものが見えてくるようになるという。

「机上検討では、岩など地面が固い場所は避けてルートを選定しますが、実際にルート調査をすると地質図とは異なり地面が固い場所があることが分かります。若手メンバーも今回のプロジェクトでそれに苦労したようです。机上検討で使える資料は大雑把なものしかありませんが、ルート調査では精度の高い調査機器を使い密に調査するため、そのような差が出ることがあります」

調査結果によっては、改めてルートを引き直すこともある。

「コストも関係しますし、ケーブル維持の観点から、より安全な場所を選ぶ必要があります。そのため10以上のパターンを用意します。風車の配置はすでに決まっていますが、その繋ぎ方は私たちが選べるため、25基分の洋上風車との繋ぎ方も考える必要があります」

現場では船に乗り込んで調査を進めるが、調査を実施していない範囲にルート変更をすることは難しくなる。そのため、ルート調査前にいかに正確な情報を集められるか、そして調査中にあらゆる要因を考慮したかがポイントになる。

「当時、入社してはじめての大規模プロジェクトを任された若手メンバーは、やはり机上検討では戸惑いもあり、“果たしてこの設計は本当に正しいのか”と手探りで進めていたようです。調査する段階になって“長期の現場に出られるな”とようやく楽しみな気持ちが湧いてきたと言っていました」

ルートが決まると、基礎や陸上の引き上げ地点など、他のインターフェースが決まってくる。海底ケーブルを引き上げるために内部構造をどうするかなど、他の会社と調整しながら工法検討を進めていく。

「洋上風車の基礎にはケーブルを通す管路があり、ここに海底ケーブルを引き込むには大きな力が必要になります。そのためどのような引き込み機材でケーブルを引き上げるかを検討しますが、必要となる引込み張力が大きければ機材が大きくなり重量も重くなるため、正確な張力計算とどうやって基礎に運搬・設置するかを慎重に検討する必要があります。基礎自体は専門の工事会社が担当しますが、どのような力が加わるのかという計算を技術担当者が実施します。管路も基礎のタイプによってパターンがいくつかあるので、それらを個別に算出する必要がありました」

2022年4月頃から現場がはじまる2023年8月まで、毎週のように詳細設計の打合せがあった。もちろんケーブル開発は以前から続けていたが、詳細設計をしながら、本格的にケーブルを作り始め、約3か月かけて実施した磁気探査の後で、協力会社との契約など、工事の準備を進めていった。特殊な資材や機材も多く、ケーブルを引き上げるウィンチなど様々な資機材をヨーロッパから購入した。

「機材を海上輸送するのは難しいので、基礎がまだ陸にあるタイミングで、使用する機材を基礎に搭載。基礎を製作するのは古河電工ではないため、自分たちで工程をコントロールできず、計画通りに搭載が進みませんでした」

現場を止めるな。常に安全第一での工程管理

現場特有の苦難にも直面する。冬は海が荒れることも多い。秋は台風がくるため工事できる時期が決まっている。今回の現場は作業員が170名、スタッフ30名の、総勢200名体制となる。短期間で工程通りに進めるための段取りはもちろん、品質管理や安全管理も非常に重視される。ところが、海の工事は綿密に計画を立てていたとしても、その日の海象条件によっては予定した作業がストップすることも。ましてや規模が大きく関係者も多いプロジェクトとなれば、計画変更の影響範囲も大きくなる。すなわち都度、調整が必要となる。

「ここまで大きなプロジェクトになると、毎日、ケーブルを布設しなければなりません。別の会社が担当した基礎にケーブルを持っていくので、基礎の工程が変われば当然私たちの工程も変わる。基礎の工程もさまざまな要因で変わるので、それに合わせた工程管理も大変です」

島しょ間連系では、海底ケーブル布設後に防護し、ケーブルを接続して終了だが、洋上風力のように規模が大きくなると、布設しながら防護も並行して進める必要があるため、必要な人員も多くなる。

「ケーブルの引き込み先が海の上なので、作業場所への人員移動手段は船になります。そのためケーブルの布設船はOKでも、人が洋上の基礎に移動できなかったら布設作業ができません。また、重い機材を持っていく際は基礎についているクレーンを使わなければならないので、その点でも陸上と比べて困難なことが多くつきまといます」

さらにもっとも重要なのが安全だ。工程変更が多くても、万が一ケガ人が出てしまうと、現場を止めて対策を打つ必要がある。

「作業員は200名ほどいて、機材も作業船も価格が非常に高いため、現場が止まらないように常に安全対策を意識していました。また、トラブルが生じると私たちだけでなく、風車を建設する大型船も止まってしまうため、それは何としてでも避けなければなりません」

メンバー間の連携はもちろん、作業をサポートしてくれる協力会社との良好な関係もあり、結果的に大きな遅延を起こすことなく布設作業を終えることができた。

「現場に来てくれている協力会社も長年一緒にやってきた仲間なので、意思疎通もしやすくなっています。急な工程変更を依頼することもありますが、そういったことも対応してもらえたことが大きかった」

多様なメンバーが一致団結してプロジェクトを進める“やりがい”

そして2025年6月に、ケーブル布設と接続が完了。古河電工が担当する電気工事についてはようやく一息ついた。このような大規模工事を円滑に進められたのは、古河電工にどのような力があるからか。海津は「経験」と「多様性」、二つのキーワードを挙げる。

「洋上風力発電は、新しい分野ではありますがパイロットプロジェクトの実績もあり、まったくのゼロスタートではないため、これまでの経験を活かすことができました。海底ケーブルも、今回は新しく開発したケーブルを使用しましたが、海底ケーブル自体はこれまで何十年と作ってきたものですし、布設工事もこれまでの実績があるため、応用検討できる素地はありました」

経験以上に重要なのが、柔軟な対応力だ。それは多様性の中で育まれている。今回のプロジェクトに参画した海津や若手社員らが所属する事業部門も現在規模を拡大中だ。これまでの古河電工は、一つの現場を6名ほどの少人数で管理していたが、今は30名ほどに増えた。

「若手も多く、中途入社の人も増えています。お互いに言いたいことが言える状況なので、意見を発信しやすい雰囲気は魅力の1つだと思います。私が入社したときはどちらかといえば保守的な会社というイメージでしたが、最近は新しいエンジニアがたくさん入ってきていることもあり、別の会社になったと感じるほど昔とは変わっていると思います」

多様なメンバーが集結すれば、会社の雰囲気が変わるだけでなく、機材の選定や配置の仕方、書類の作り方など、中途で入ってきた人たちが新しいノウハウを持ち込んでくれる。それは新しいことを手探りでやっている挑戦的な現場において大きなプラスになっている。

「そんな多様なメンバーが一致団結してプロジェクトを進めるというところに、やりがいや達成感を覚えると思います」

古河電工はグループパーパスとして”「つづく」をつくり、世界を明るくする。”と掲げている。まさにそれを実感できるプロジェクトといえる。

「電力ケーブルという非常に重要な社会基盤を作っていますが、これまでは発電所内やトンネルの中など目に見えない場所だったこともあり、日の目を見ない仕事というイメージでした。洋上風力は風車が立ち、そこにある電力は自分たちが入れたケーブルを通っているということが分かりやすい形として表れます。また、二酸化炭素の排出量削減にも貢献できますし、社会的にも注目を浴びています。目に見える形で意義あることをしていますし、何よりも自分の子どもが認識してくれる、インパクトのある仕事に携わったという意味でも良い経験だと思います」

動画:北九州響灘洋上ウィンドファーム 海底ケーブル布設工事

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