国内最大となる洋上風力発電設備の海底ケーブルを布設。未知なる領域を切り拓く古河電工の組織力(後編)
風車25基で最大出力22万キロワット、国内最大となる洋上風力発電設備「北九州響灘洋上ウィンドファーム」。古河電工は、国内屈指の超高圧海底ケーブルメーカーとして、海底送電ケーブルシステムの製造から施工までを一貫して担っています。本プロジェクトにかかわったメンバーが、何を思い、何を乗り越えてきたのか。皆さんの“リアルな声”を前後編にわたりご紹介します。後編にあたる本記事では、現場で活躍した多様なメンバーからお話をうかがっています。
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本記事は2025年8月8日に取材したものです。なお、従業員の所属組織名は、2026年4月時点のものです。
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- はたなか けいご畑中 啓吾
- エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 2022年入社
前職では施工管理を経験。古河電工に中途入社後、地中線工事の計画を担当し、2024年から本プロジェクトに参画。
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- ありかわ ゆうき有川 裕貴
- エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 2019年入社
工事設計、提出資料の管理、および現場事務所にて全体工程の管理と業務調整、布設船および埋設船上で現場管理に従事。
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- かたひら ゆういち片平 雄一
- エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 2023年入社
古河電工に中途入社直後、本プロジェクトに参画。揚陸工、渚接続工の現場管理、電力ケーブル接続工を担当。
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- たなか はやと田中 勇人
- エネルギーインフラ領域電力事業部門電力プロジェクト統括部新エネルギ-エンジニアリング部第2課 2021年入社
プロジェクト計画段階では、技術検討および関連書類の整備に従事。以降、モックアップ試験、資機材の仕様確認・調達、引込工事の設計と現場管理にも従事。
機材調達から工程、試験の基準まで全て自分たちで決める。ゼロからのスタート
2019年から本格的に始動した「北九州響灘洋上ウィンドファーム」プロジェクト。2021年に入社した田中は、その直後、基本設計の段階から参画。磁気探査、モックアップ試験、そして海外からの資機材調達などに関わった。
「洋上風力発電事業そのものが、日本国内ではまだ前例が少なく、実績がほとんどない状況です。そのため、元請け会社様も含め、初めての試みが多く、まさに手探り状態にありました」(田中)

担当することになった海外からの機材調達は、入社したばかりの田中にとって、当然、初めての経験だった。
「海外サプライヤーとの間にはあらゆる点において考え方の違いがあり、なかなか思ったように進められない場面もありました。また、当社として初めて使用する機材もあり、どのような試験を実施すべきかという、基準から全て自分たちで決めなければなりません。さらに製品が特定の条件を満たしていることを証明するための論理を自ら構築し、関係者を納得させる必要もありました。いずれも私にとってはじめての経験でしたが、結局のところ、“やるしかない”という思いで取り組みました」(田中)
並行して、「事前搭載」も進めた。風車の基礎がまだ陸上にある段階で、設置可能な機材を先に取り付けておく。担当者の畑中はこう振り返る。
「海底ケーブル布設に必要な機材を事前に据え付けたり、風車内部にEPRケーブルを支持するための副資材を搬入するなどの準備作業を進めました。前職で施工管理の経験があったため、その知識を活かせると考えていましたが、久しぶりの現地対応でもあったので、安全管理や防災、品質管理に気を配り、特に重量物を扱う際は、製作中であるお客様の基礎構造物を傷つけないよう細心の注意を払いました」(畑中)

施工管理において重視すべきは、機械ではなく“人間を相手にする”点だと、畑中は力を込めていう。
「私たちは、作業員の方々に何かをお願いして、動いてもらう立場にありますから、いかに気持ちよく作業をしてもらうかが重要になります」(畑中)
その一方で、お客様からもさまざまな要望が寄せられる。それが時には作業員にとっては負担になったり、“もっと別のやり方で進めたい”という意向が生じたりもする。しばしば板挟みの状況に陥るが、双方にとっての最適な“落とし所”を見つけていくことが重要だという。
「最終的には、お互いがよく話し合い、双方にとって納得のいく着地点を見つけることが重要になります。まずは正直に状況を伝えると、現場からは『それは難しい』という声も上がりますが、そこからコミュニケーションが始まります。人間を相手にするからこその難しさがあり、大変な部分ではありますが、それが施工管理の重要な役割だと自覚しています」(畑中)
2024年1月から「モックアップ試験」を開始。これは、洋上作業と可能な限り同じ条件を陸上で再現し、ケーブルの立ち上げ作業が可能かどうかを検証する工程だ。
「限られた期間の中で、さまざまな実験データを取得する必要がありました。そのため、その日に得られたデータをもとに“明日の実験条件はこうしよう”と、常に状況に合わせて計画を変化させました。また、多くの人員が必要だったため、一番忙しい時期には他部門のメンバーに現場へ来てもらって各所に配置するなど、その調整にも苦慮しました」(田中)
モックアップ試験では、実際に工事に使用する風車やケーブルを用意する。本プロジェクトの直前に田中が経験した北海道石狩のプロジェクトを参考にしたものの、さらに厳しい条件を課した。
「今回の響灘のプロジェクトでは、より実際の施工に近い試験条件を意識。ケーブルの線形を本番と完全に一致させるために大型クレーンで吊り上げました。そこまでこだわったのは当社としても今回がはじめてのこと。現場で、布設中にケーブルが基礎に引込みできなくなれば全ての布設作業がストップしてしまうため、着実に試験を進めていきました」(田中)
2023年の冬から「ドキュメントコントローラー業務」が始まった。これは、プロジェクトにおける全ての作業内容について、“何をするか”を明確に資料化するもの。担当したのは2019年新卒入社の有川だ。
「作業員が感覚的に言語化する作業内容を、誰もが理解できるよう定量的に数値化したり、図にする必要がありました。追求すればするほど細かく複雑になりますが、承認をいただかなければ前に進まないので、お客様と作業員の双方にとって分かりやすい、適切なレベルの資料を作成することに注力。そのバランスに苦慮しました」(有川)

ドキュメントコントローラーについては、以前に有川が担当した「北海道石狩プロジェクト」における知見を活かせたという。
「その経験から学んだのは、“具体化しすぎない”ことです。あまりに細かく規定すると、逆にその手順に縛られてしまい、現場での柔軟な対応が難しくなります。ですから、具体的に見えつつも、ある程度の幅を持たせておくというさじ加減を意識しました」(有川)
もちろんお客様からの承認もすんなりとはいかず、双方が納得いくまで3~4回とキャッチボールが繰り返された。
「『ここの記述はどういう意味か』『もっと詳しく説明してほしい』『この資料が足りない』といった指摘を受け、その都度、協力会社と連携して資料を修正していきました。粘り強く取り組みながら、一つの完成形に仕上げていきました」(有川)
長年培ったノウハウを持つ古河電工だからできる、重要な作業
2024年の4月から本工事がはじまった。まずは船から浮き輪を付けたケーブルを海に浮かべ、その先端を別の船が牽引。護岸の下をくぐらせて陸地に引き込んでいく。この周辺は水深が浅いため、大きな船が入ることができない。そのため、小さな船や、時には人力で引く必要があった。まず布設船に乗りこんだのは、事前搭載を終えた畑中、ドキュメントコントロールを担当していた有川だった。
「このプロジェクトは、関わる工種が非常に多いという特徴があります。例えば、海底ケーブルの布設だけでも、まず布設船が2隻あります。ケーブルを陸に上げる陸揚げ工程では陸上担当者が必要ですし、風車に引き上げる際には風車担当者が必要です。風車担当だけでも4班あるので4人必要になります。さらに、風車にケーブルを引き上げた後は接続作業があり、それにも担当者が関わります。その他にも、光ケーブルの処理や、作業後のやぐらの撤去、片付けなど、多くの作業が同時に進行します」(田中)
ケーブルを布設しながら、地上のマンホール内で陸側のケーブルと接続。この「渚ジョイント」と呼ばれる作業を担当したのが片平だ。
「ジョインターと呼ばれる専門の作業員が行うのですが、我々はその現場管理、施工管理を担当。前職で長年施工管理を経験してきたので、作業の進め方については、ある程度の予測は立てていました。しかし、これまで経験してきた作業と全く違う点としては、電力ケーブルの特性が挙げられます」(片平)

以前、片平が扱っていた架空線は、絶縁被覆のない裸線だったため、適切な長さで切断して圧縮すれば作業は完了した。しかし今回の電力ケーブルの場合、接続するために被覆を段階的に剥いでいく「ケーブル処理」が必要となり、その手順が非常に膨大だった。さらに、ケーブルの処理と接続が終わった後には、水が浸入したり、電気的な部分破壊が起こったりしないように、表面を滑らかに仕上げる「絶縁処理」「防水処理」を施していく。
「古河電工には、こうした重要な作業に関するノウハウが蓄積されており、非常に細かい手順が定められていることを知りました。その手順の細かさには驚かされます。それだけの技術力があるからこそ、初めての条件下での工事であっても、無事に完了させることができるのだと感じました」(片平)
“布設船を止めない。” メンバー全員が共通して持つ強い思い
担当者が特定の工種だけにかかわっていない、すなわちフレキシブルにさまざまな工程に関わっていくとなると、柔軟かつ着実なチームワークが必要となる。
「メンバーの年齢が20代から40代と比較的若く、一体感がありました。もちろん、現場責任者の海津とマネージャーの五十嵐というベテランもいますが、他のメンバーは年齢が近いこともあり、頻繁にコミュニケーションを取っていました。それは雑談だけでなく、業務上の細かな調整、例えば『船をいつ動かすか』『いつ現場に入るか』といった海上作業特有の連携も、躊躇なく行えていました」(有川)
工事が進んでいる間は、常に10以上の工種が同時に動いている状況だった。そのため、船の調整や元請会社との連携など、密にコミュニケーションを取る必要があった。さらに天候の要素も加わるため、多い日には1日で60回も電話をしたことがあるという。
「各班にそれぞれ担当者がいて進捗管理などは行いますが、その4班全体の動きを調整する必要がありました。天候次第で作業予定が直前に変わることも多く、『今日はこの風車で作業する』となれば、その先の工程が全て変わってしまいます。そのため、どのような状況になっても対応できるように人員配置を考え、作業範囲を指示し、他の班との兼ね合いを見ながら『この時間帯はこの船を使う』といった調整を常に行っていました」(田中)

畑中も、チームのコミュニケーションについて言及する。
「先ほどから話に出ているように、天候などの要因もあり、玉突き状態で次々と工程が進んでいく状況でした。私の前工種は片平さんだったのですが、『早く作業を進めてほしい』と調整をお願いすることもあれば、『それは無理だ』と言われることもありました。そうしたやり取りも含めて、密なコミュニケーションがありました」(畑中)
とにかく、メンバー全員が「布設船を止めてはいけない」という強い思いを持っていた。
「なぜなら布設船は、1日待機するだけで莫大な費用が発生します。さらに洋上風力発電の場合、海底ケーブルの布設後にタワーを建設する後工程があり、そこで使われる船の費用も非常に高額となります。そのため、工程を遅らせるわけにはいかない、この共通認識のもと、皆が自分のできる準備を万全に行い、担当者と密に連絡を取り合うことで、船を止めずに作業を進めることを目指していました」(田中)
それはプロジェクトメンバーだけに限った話ではない。布設船に乗船していた約10社、40名もの職人の方々はもちろん、元請けのお客様とも一丸となってチームワークを発揮できた。その根底には“このプロジェクトを成功させたい”、そして“風車が実際に回る姿を見たい”という強い思いがあったからに他ならない。
「古河電工には“Core Values”というものがあり、その中にはチーム全体で協力して一つのものを創り上げる『共創』の精神と、各班長が自ら考えて動く『主体・迅速』の姿勢が示されています。この二つのキーワードが今回のプロジェクトに強く表れていたと感じます。これは、古河電工の社員全員が共有している価値観です」(有川)。

多様なメンバーの価値観が集結してなし得た成果
そして2025年6月、ケーブル布設と接続が完了。電気工事自体はようやく一息つくかたちになった。このような大規模工事を円滑に進められたのは、古河電工にどのような力があるからか。キーワードは「主体性」だ。
「メンバー一人ひとりが“こうしたい”“こうすべきだ”という主体的な意見を持っていたことだと思います。だからこそ議論が深まり、全員が“工期内に完成させたい”という共通の目標に向かって進むことができたのだと思います」(田中)
片平も同意する。
「やはり一人ひとりが主体的に行動している点が大きいと思います。それぞれが責任感を持ち、自分の担当する工種で決して問題を起こさない、という強い意志を持って業務に取り組む雰囲気が社内にあります。そのため、新たに参加するメンバーも、そうしたカルチャーに共感し、同じ意識で業務に取り組むことで、現在のような良い結果に繋がっているのではないでしょうか」(片平)

また、このプロジェクトには、さまざまな業種から中途採用で多くの人が集まっているという特徴がある。そのため、電気関係の専門知識だけでなく、土木や海洋に関する知見を持つ人材も豊富だ。多様な経験を持つメンバーがいるため、関連する分野で経験を積んだ人にすぐに相談できるのだという。
「多様な視点から物事を考えられる点が非常に面白いと感じています。さらに、個人の裁量で物事を決定できる範囲が非常に広く、その分、自分の判断が現場に与える影響も大きくなります。そうした点も、この仕事の面白さであり、醍醐味だと感じています」(片平)
畑中は社内風土についてこのように語る。
「お互いに助け合う文化が根付いていると感じます。実際に、自分の担当工種の作業が終わった後に、他の工種を手伝いに行くといった場面が何度も見られました。自分の仕事が終わればそれで良いというわけではなく、プロジェクト全体、そして組織としてお互いをフォローし合う姿勢が、この現場にはありました。これは、他の会社から転職してきた私にとっても強く感じられた点ですね」(畑中)
メンバーが口にする会社のカルチャーは、一体どのようにして醸成されたのだろうか。
「第一に、周りの人々の影響が最も大きいと思います。それに加えて、中途で入社した方々が、我々が持つ固定概念にとらわれない新しい視点をもたらしてくれています。このように、さまざまな視点を持つ人々が交じり合うことで、組織としての一貫した方向性が定まり、それが独自のカルチャーとして形成されていくのではないでしょうか」(有川)
しかもトップダウンというよりはボトムアップ型の組織だと感じているメンバーも多い。特に、若いメンバーに仕事を任せてくれる文化があり、基本的には個人の裁量で業務を進めることができる。
「もちろん、長年経験を積まれたベテランの方々の意見は非常に重要ですので、その知見を取り入れつつ、自分たちなりのやり方で仕事を進めていくことが、私たち若手の務めだと考えています。その結果として、組織全体が良い方向へ進んでいくのだと思います」(有川)

プロジェクトが一段落ついた今だからこそ、改めてこのプロジェクトの社会的意義について問うと、メンバーからこのような回答があった。
「洋上風力という分野は、これからさらに発展していくものだと考えています。その中で、私たちが今回実践したやり方が、今後のプロジェクトにおける一つのモデルケース、つまり標準的な工法として確立されていく可能性があると思います。そう考えると、自分たちの仕事が未来の役に立つかもしれないという点に、大きな誇りを感じています」(田中)
「洋上風力はまだ発展途上ですが、今後は浮体式の洋上風力発電も増えてくると言われています。今回のプロジェクトで得た経験は、そうした次世代のプロジェクトに繋がる重要なものになると考えています。世の中全体として、このプロジェクトが無事に完了し、風力エネルギーで社会の電力が賄えるようになれば、非常に嬉しいです。私たちは、そうした未来を願いながら日々仕事に取り組んでいます」(片平)
「洋上風力発電は、日本の国策として推進されている重要な再生可能エネルギー源です。その先駆けとも言えるこのプロジェクトに参加できたことは、非常に有意義だったと感じています。この実績を通じて、『海底ケーブルの施工なら古河電工』というブランドイメージを確立できたのではないでしょうか。今後も洋上風力のプロジェクトは続くと考えられますが、今回の経験を活かし、会社としてさらに対応力を高めていくことで、この分野における確固たる地位を築いていきたいです。そのために、引き続き邁進していければと考えています」(畑中)
「洋上風力はまだ発展途上の事業ですが、2050年のカーボンニュートラル達成、つまり温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという国家目標に向けた重要な第一歩だと感じています。この北九州の洋上風力発電所は、年間で北九州市の一般家庭の約40%の電力を供給する能力があるそうです。そう考えると、私たちは非常に大きなプロジェクトに参加できたのだと実感します。また、当社のパーパスである「『つづく』をつくり、世界を明るくする。」という言葉は、まさに持続可能な社会を目指すサステナビリティの考え方に沿うものです。この洋上風力プロジェクトも、その理念を体現するものだと考えています。これを糧に、会社としても社会に貢献し続けていければと思います」(有川)

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