マルチバンドアンテナ用レドームの課題

  • 全ての周波数帯での電波透過性の担保が困難
  • 担保できても電波放射角度を広げることが困難

低誘電発泡素材Smart Cellular Board(SCB)は、これらの課題を解決し、
良好な電波透過性を有するマルチバンドアンテナ用レドームを実現します。

マルチバンドアンテナとは

複数の周波数帯域に対応できるアンテナのことを、マルチバンドアンテナと呼びます。複数の周波数帯を一つの機器に集約して扱うことができるようになるため、システム全体の小型化や、機器の多機能化が期待でき、例えばモバイル通信基地局のように、扱う周波数帯が多い用途において、重要な技術です。

近年、通信カバーエリアの拡大や、災害発生時の通信エリア構築を目的とした非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)として、Starlinkをはじめとした衛星通信が注目されていますが、この分野においても、マルチバンドアンテナの検討が進んでいます。

また衛星通信においては、1つの周波数帯の中に、通信能力と電力消費の観点から、地上から衛星に向けて送信するアップリンク(電力供給が可能なため、周波数を高くして通信能力を担保し、送信時の減衰は元の出力で補う)と、衛星から地上に向けて送信するダウンリンク(電力が限られるため、周波数を低くし、減衰しづらくすることで元の出力を抑える)の、実質2つの周波数帯が含まれています。

マルチバンドアンテナには、機器の内部を保護するレドーム(アンテナカバー)が設置されます。レドーム(アンテナカバー)には、アンテナを保護する保護筐体(エンクロージャー)としての機能と、複数の周波数帯それぞれの電波に対する良好な電波透過性が求められます。

マルチバンドアンテナの課題・ご要望

複数の周波数帯域全域での電波透過性の担保

前述の通り、マルチバンドアンテナのレドーム(アンテナカバー)には、複数の周波数帯それぞれの電波を良好に透過することが求められます。レドーム(アンテナカバー)に電波を入射すると、入射成分は、反射成分、吸収成分、透過成分の3つに分かれるため、反射成分と吸収成分を減らすことで、透過成分を増やすことができます。

電波の反射成分を減らすためには、空気とレドーム材料の誘電率の差を小さくし、特性インピーダンス(注)を近づけることが重要です。すなわち、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を1に近づけるほど、反射を抑制することができます。

また更に、レドーム材料の誘電正接(tanδ、Df)を小さくすることで、吸収も抑制することができます。

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しかし、従来の無線通信用アンテナのレドーム(アンテナカバー)には、ポリカーボネート(PC)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)等の、ソリッドな樹脂材料が使用されることが多く、これらの材料は比誘電率(εr、Dk)が比較的大きいため、空気とレドーム材料の界面において反射が生じ、電波透過性が低下します。

この対策として、レドーム(アンテナカバー)の厚さを、使用する電波の波長を考慮した値に調整し、レドーム材料の表面と裏面における2つの反射波を重ね合わせ、打ち消すことで、見掛け上の反射成分を減らし、電波透過性を担保します。

下図は、これを示した模式図です。

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a)反射波1と2の位相が180°ずれる場合(逆相)

弱め合い、見掛け上、反射成分が無くなる
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b)反射波1と2の位相が一致する場合(同相)

強め合い、反射成分が大きくなる
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空気からレドームに電波を入射する場合、入射側のレドーム表面と、その裏面のそれぞれにおいて、反射が生じます。反射の際、空気からレドーム材料に入射して生じる反射波1では、比誘電率(εr、Dk)が低い側から高い側に入射する関係で、反射波の位相は入射波から180°ずれます。

一方、レドーム材料から空気に入射して生じる反射波2では、比誘電率(εr、Dk)が高い側から低い側に入射するため、反射波と入射波の位相は同じになります。

またレドーム材料中を通過中の電磁波の波長は、比誘電率(εr、Dk)の影響で短縮され、空気中を伝搬する際の波長(λ)に対し、式1で表される誘電体中の波長(λ’)に変化します。

λ’ = λ /(εr1/2 ………(式1)
  • λ’:誘電体中における電磁波の波長
  • λ:空気中における電磁波の波長
  • εr:比誘電率(Dk)

理論上は、レドーム材料の厚さ(t)を式2とすることで、反射波1と2が重ね合わせで打ち消し合い、見掛け上、反射が生じていない状態となるため、電波透過性が向上することになります。

t = λ’ ×(n/2) ………(式2)
  • t:レドーム厚さ
  • n:整数

また逆に、レドーム材料の厚さ(t)を式3とすると、反射波1と2が重ね合わせで強め合い、見掛け上の反射成分が強まるため、電波透過性が低下することになります。

t = λ’ ×(n/2 + 1/4)………(式3)

しかし、マルチバンドアンテナ用レドームの場合、式2を用いる方法で電波透過性を担保しようとすると、それぞれの周波数の電波に対して式2を満たす必要があり、同じレドームの厚さで全ての電波に対して良好な電波透過性を担保することが困難となります。(下図)

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この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面において電波が反射すること自体を、抑制することが重要です。

  • (注)特性インピーダンス:
    電磁波が媒質中を伝搬する際の、電場と磁場の比率です。2つの物質の特性インピーダンスの差が小さいほど、その界面における電磁波の反射が起こりづらくなります。

電波の入射角度の変化による電波透過性の低下

マルチバンドアンテナでビーム走査して電波を放射する場合、例えばモバイル通信基地局や衛星通信においては、アンテナから様々な角度で電波を発信/受信する必要があります。式2を利用して電波透過性を担保する場合、発信角度が変化すると、実効的なレドームの厚さが変化するため、角度によって電波透過性が変化します。(下図)

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この対策として、レドーム形状変更による電波のレドームへの入射角度の調整、レドームの厚さの局所的な調整といった、面倒な調整や形状の制約が必要になります。この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面において電波が反射すること自体を、抑制することが重要です。

Smart Cellular Board(SCB)活用の効果

使用する全ての電波に対する電波透過性の担保

Smart Cellular Board(SCB)は、古河電工の独自技術であるSCB発泡技術を利用することで、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった、従来発泡が難しい耐熱性樹脂の発泡を実現しました。

図は、ソリッドな樹脂材料とSmart Cellular Board(SCB)を比較した、誘電マップです。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡により、母材となる樹脂に空気を取り込むことで、母材の持つ比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を空気に近づけ、低減することが可能です。

特に、比誘電率(εr、Dk)においては、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満を実現しています。

このため、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面における電波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な電波透過性が得られるようになります。

また Smart Cellular Board(SCB)は、気泡構造を独立気泡とすることで、従来の発泡素材で懸念される気泡内への水の侵入を防ぎ、吸水による電波透過性の低下を抑制することができます。これにより、マルチバンドアンテナとして複数の電波を扱う場合においても、それぞれの電波の帯域幅全域で、良好な電波透過性を担保することが可能となります。

入射角範囲全体での電波透過性の担保

Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満の比誘電率(εr、Dk)を実現しています。

これにより、 Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面における電波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な電波透過性が得られるようになります。その結果、 アンテナから様々な角度で電波を発信/受信する(実効的なレドームの厚さが変化する)場合でも、広い角度範囲全体で、良好な電波透過性を担保できます。

a) PETシート(ソリッド)
b) SCB-PET

図. PETシート(ソリッド)とSCB-PETの電波透過性SIM

「Smart Cellular Board」「SCB」は古河電気工業株式会社の登録商標です。

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