テラヘルツ波とは
テラヘルツ波とは、およそ100GHz~10THzの周波数を有する電磁波で、波長は0.03~3mm程度になります。この周波数は、電波と光(赤外光)の間に位置しており、それぞれの波の中間的な特徴を有します。
テラヘルツ波を無線通信に利用する場合、従来の電波よりも周波数が高く、帯域幅を広くできるため、通信を高速、大容量化できるメリットが有ります。
一方で、減衰し易く、直進性が高いため、通信距離が短くなるデメリットも有ります。無線通信へのテラヘルツ波の適用先として、Beyond5Gや6G以降における大容量通信や、データセンタの無線化等が、検討されています。
またテラヘルツ波は、光に対して透過性に優れる性質を持ち、電波に対して波長が短いため、プラスチック、セラミックス、紙、繊維、木材、といった誘電体を透過させることで、内部構造を非破壊かつ比較的高い分解能で確認できる利点があり、検査装置への適用が検討されています。
更に、紫外線やX線のようなエネルギーの高い電磁波は、過度に浴びると人体に悪影響を及ぼしますが、テラヘルツ波は可視光よりもエネルギーが低く、影響が小さいため、空港ゲートにおける検査等への適用も、検討が進んでいます。
| 主な適用先 | メリット | デメリット | |
|---|---|---|---|
| 無線通信 | Beyond5Gや6Gにおける大容量通信 | 高速、大容量通信 | 通信距離が短い |
| データセンタの無線化 | 高速、大容量通信 | 通信距離が短い | |
| 内部検査 | 検査装置 | 比較的高い分解能 | - |
| 空港ゲート | ・比較的高い分解能 ・人体への影響が小さい |
- | |
テラヘルツ波を通信機器や検査装置に適用する場合、機器には、テラヘルツ波の発信源となるアンテナ素子を保護するための、レドーム(アンテナカバー)が設置されます。レドーム(アンテナカバー)には、アンテナを保護する保護筐体としての機能と、テラヘルツ波を良好に透過することが求められます。
テラヘルツ波通信機器用レドームの課題・ご要望
レドーム厚さの担保
前述の通り、テラヘルツ波を用いた通信機器や検査機器のレドーム(アンテナカバー)には、テラヘルツ波を良好に透過することが求められます。レドーム(アンテナカバー)にテラヘルツ波を入射すると、入射成分は、反射成分、吸収成分、透過成分の3つに分かれるため、反射成分と吸収成分を減らすことで、透過成分を増やすことができます。
テラヘルツ波や電波のような電磁波の反射成分を減らすためには、空気とレドーム材料の誘電率の差を小さくし、特性インピーダンス(注)を近づけることが重要です。すなわち、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を1に近づけるほど、反射を抑制することができます。
また更に、レドーム材料の誘電正接(tanδ、Df)を小さくすることで、吸収も抑制することができます。
しかし、従来の無線通信用アンテナのレドーム(アンテナカバー)には、ポリカーボネート(PC)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)等の、ソリッドな樹脂材料が使用されることが多く、これらの材料は比誘電率(εr、Dk)が比較的大きいため、空気とレドーム材料の界面において反射が生じ、電波透過性が低下します。
この対策として、レドーム(アンテナカバー)の厚さを、使用する電磁波の波長を考慮した値に調整し、レドーム材料の表面と裏面における2つの反射波を重ね合わせ、打ち消すことで、見掛け上の反射成分を減らし、電波透過性を担保します。下図は、これを示した模式図です。
a)反射波1と2の位相が180°ずれる場合(逆相)
b)反射波1と2の位相が一致する場合(同相)
空気からレドームに電磁波を入射する場合、入射側のレドーム表面と、その裏面のそれぞれにおいて、反射が生じます。反射の際、空気からレドーム材料に入射して生じる反射波1では、比誘電率(εr、Dk)が低い側から高い側に入射する関係で、反射波の位相は入射波から180°ずれます。
一方、レドーム材料から空気に入射して生じる反射波2では、比誘電率(εr、Dk)が高い側から低い側に入射するため、反射波と入射波の位相は同じになります。
またレドーム材料中を通過中の電磁波の波長は、比誘電率(εr、Dk)の影響で短縮され、空気中を伝搬する際の波長(λ)に対し、式1で表される誘電体中の波長(λ’)に変化します。
- λ’:誘電体中における電磁波の波長
- λ:空気中における電磁波の波長
- εr:比誘電率(Dk)
理論上は、レドーム材料の厚さ(t)を式2とすることで、反射波1と2が重ね合わせで打ち消し合い、見掛け上、反射が生じていない状態となるため、電波透過性が向上することになります。
- t:レドーム厚さ
- n:整数
また逆に、レドーム材料の厚さ(t)を式3とすると、反射波1と2が重ね合わせで強め合い、見掛け上の反射成分が強まるため、電波透過性が低下することになります。
しかし、テラヘルツ波を用いる場合、式2を用いる方法で電波透過性を担保しようとすると、波長が短いため、式2、3を満たすレドーム厚さの絶対値の差が小さく、レドーム厚さが僅かにずれただけでも、電波透過性が大きく変化することになり、工業上のレドーム厚さの管理が困難となります。(下図)
⇒ 板厚管理幅を担保し易い
⇒ 板厚管理幅の担保が困難
この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面においてテラヘルツ波が反射すること自体を、抑制することが重要です。
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(注)特性インピーダンス:
電磁波が媒質中を伝搬する際の、電場と磁場の比率です。2つの物質の特性インピーダンスの差が小さいほど、その界面における電磁波の反射が起こりづらくなります。
広帯域な周波数全域での電波透過性の担保
特に通信機器にテラヘルツ波を適用する場合、高速、大容量通信を実現するためには、帯域幅を広くすることが重要です。例えば、Beyond5Gや6G以降の次世代通信で検討されている周波数帯である、DバンドやWR-3.4バンドは、数十~百GHz程度の帯域幅を有します。
これらの周波数帯が適用される通信機器のレドームは、帯域幅全域で、テラヘルツ波を良好に透過する必要があります。ここで、テラヘルツ波の波長は、周波数によって決まるため、帯域幅が広いことは、扱うテラヘルツ波の波長の分布が広いことを意味します。
式2を利用して電波透過性を担保する場合、波長が変化すると、テラヘルツ波を透過させるために必要なレドーム厚さも変化するため、帯域幅全体で良好な透過性を担保できるレドーム厚さを設計することが、非常に難しくなります。
⇒ 帯域内で電波透過性の変動が小さい
⇒ 帯域内で電波透過性が大きく変動
この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面においてテラヘルツ波が反射すること自体を、抑制することが重要です。
テラヘルツ波の入射角度による電波透過性の変化
通信機器にテラヘルツ波を適用する場合、例えばBeyond5Gや6G以降のモバイル通信において、アンテナから様々な角度でテラヘルツ波を発信/受信する必要があります。式2を利用して電波透過性を担保する場合、発信角度が変化すると、実効的なレドームの厚さが変化するため、角度によって透過性が変化します。(下図)
この対策として、レドーム形状変更によるテラヘルツ波のレドームへの入射角度の調整、レドーム厚さの局所的な調整といった、面倒な調整や形状の制約が必要になります。この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面においてテラヘルツ波が反射すること自体を、抑制することが重要です。
Smart Cellular Board(SCB)活用の効果
レドーム厚さの自由度の向上
Smart Cellular Board(SCB)は、古河電工の独自技術であるSCB発泡技術を利用することで、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった、従来発泡が難しい耐熱性樹脂の発泡を実現しました。
図は、ソリッドな樹脂材料とSmart Cellular Board(SCB)を比較した、誘電マップです。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡により、母材となる樹脂に空気を取り込むことで、母材の持つ比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を空気に近づけ、低減することが可能です。
特に、比誘電率(εr、Dk)においては、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満を実現しています。
このため、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面におけるテラヘルツ波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な透過性が得られるようになります。またSmart Cellular Board(SCB)は、気泡構造を独立気泡とすることで、従来の発泡素材で懸念される気泡内への水の侵入を防ぎ、吸水による電波透過性の低下を抑制することができます。これにより、式2の板厚の制約を受けずに、レドームを設計することが可能になります。
帯域幅全体での電波透過性の担保
Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満の比誘電率(εr、Dk)を実現しています。
このため、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面におけるテラヘルツ波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な透過性が得られるようになります。これにより、帯域幅の広い(波長の範囲が広い)テラヘルツ波を扱う場合においても、帯域幅全域で、良好な透過性を担保することが可能となります。
入射角範囲全体での電波透過性の担保
Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満の比誘電率(εr、Dk)を実現しています。
これにより、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面におけるテラヘルツ波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な透過性が得られるようになります。その結果、アンテナから様々な角度でテラヘルツ波を発信/受信する(実効的なレドームの厚さが変化する)場合でも、広い角度範囲全体で、良好な透過性を担保できます。
図. PETシート(ソリッド)とSCB-PETの電波透過性SIM
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