高周波通信機器用フェーズドアレイアンテナ基板の課題

  • 高周波化に伴いパターン形成に対する公差が厳しくなり、製造が困難となる
  • 高周波化に伴い伝送損失が増大する

低誘電発泡素材Smart Cellular Board(SCB)は、これらの課題を解決し、
伝送損失の小さい高周波通信機器用フェーズドアレイアンテナ基板を実現します。

フェーズドアレイアンテナとは

フェーズドアレイアンテナ(Phased Array Antenna)は、複数のアンテナ素子を平面上でアレイ状に配置し、それぞれの素子から発信される電波を重ね合わせ、ビームフォーミングすることで、電波の指向性と強度を高めることができるアンテナです。各素子から発信される電波の位相を電子的に制御し、アンテナの向きを変えずに放射方向を変えることができます。(下図)

a)0°方向に放射する場合
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b)角度をつけて放射する場合
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電波は、周波数が高いほど、同一アンテナ開口において高い指向性を得やすく、様々な方向に対して電波を送受したい場合、フェーズドアレイアンテナを用いたビームフォーミングを活用することが有効です。この背景から、5G通信基地局に用いられているMassive MIMOや、Starlinkをはじめとした衛星通信用アンテナにも採用されています。またミリ波レーダーや、無線給電(ワイヤレス給電)等での検討も進んでいます。

テラヘルツ波帯のような、より高周波数な電波の利用により、高速・大容量通信を実現することが期待される、Beyond5G、6G以降の次世代モバイル通信や、データセンタの無線化等においても、適用が検討されています。

高周波通信機器用フェーズドアレイアンテナ基板の課題・ご要望

高周波化に伴うアンテナ素子の狭小化

フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子間の間隔は、アンテナ基板を構成する誘電体中における電波の波長(λ’)の、おおよそ1/2とする必要が有ります。

誘電体中における電波の波長(λ’)は式1により表され、空気中の電波の波長(λ)を、誘電体の比誘電率(εr、Dk)の1/2乗で除することで得られます。

λ’ = λ / (εr)1/2 ………(式1)
  • λ’:誘電体中における電波の波長
  • λ:空気中における電波の波長
  • εr:比誘電率(Dk)

周波数が高くなると、空気中における電波の波長(λ)が短くなるため、誘電体中における電波の波長(λ’)も短くなり、結果として、フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子間隔や素子のサイズが小さくなります。素子サイズの小型化が進むと、製造上、回路形成の難易度が上がることになります。

またアンテナ素子の裏側には、電気信号の増幅や位相制御等を担う、ビームフォーミングIC(BFIC)が配置されますが、アンテナ素子間隔が狭くなると、配置スペースの確保が難しくなります。仮にアンテナ素子から離して配置出来たとしても、伝送路が長くなることで、伝送損失が増大します。(下図)

a)アンテナ素子間隔が広い場合
⇒ BFICを均等に配置できる
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b)アンテナ素子間隔が狭い場合
⇒ BFICを均等に配置できない
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この問題を解決するためには、式1における誘電体の比誘電率(εr、Dk)を低減し、誘電体中における電波の波長(λ’) を大きくすることで、アンテナ素子の狭小化を抑制することが重要です。

高周波化に伴う誘電損失の増大

高周波数の電気信号を伝送する場合、伝送線路における伝送損失の増大が問題となります。伝送損失とは、配線基板に交流電気信号を流す際、電気エネルギーの一部が熱エネルギー等に変換されることで生じる、信号の減衰のことです。

伝送損失は、基板の信号線路として使用される導体の抵抗や表皮効果による導体損失、導体の表面や基材となる誘電体との界面における信号散乱による散乱損失、基材となる誘電体における誘電損失、の3つから成ります。

このうち、誘電損失は式2により計算されます。

αd = K × f × εr1/2 × tanδ ………(式2)
  • αd:誘電損失
  • K:比例定数
  • f:周波数
  • εr:比誘電率(Dk)
  • tanδ:誘電正接(Df)

この式から、周波数(f)を高くすると、誘電損失が増大することが分かり、その結果、伝送損失も増大することになります。この高周波化に伴う誘電損失の増大を抑制するためには、基材となる誘電体の比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低くすることが重要となります。

Smart Cellular Board(SCB)活用の効果

高周波化に伴うアンテナ素子間隔の狭小化を抑制

Smart Cellular Board(SCB)は、古河電工の独自技術であるSCB発泡技術を利用することで、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった、従来発泡が難しい耐熱性樹脂の発泡を実現しました。

図は、ソリッドな樹脂材料とSmart Cellular Board(SCB)を比較した、誘電マップです。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡により、母材となる樹脂に空気を取り込むことで、母材の持つ比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を空気に近づけ、低減することが可能です。

特に、比誘電率(εr、Dk)においては、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満を実現しています。

このため、Smart Cellular Board(SCB)をアンテナ基板の誘電体として用いることで、式1による誘電体内での波長短縮が抑制され、その結果、フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子の狭小化を、抑制することができます。(下図)

誘電損失の低減

アンテナ基板の伝送損失を低減するにあたり、誘電損失の観点からは、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低減することが重要です。従来のソリッドな樹脂材料においては、比誘電率(εr、Dk)は樹脂種によりおおよそ決まるため、低減の難易度が特に高く、誘電正接(tanδ、Df)の低減に主眼が置かれることが多いです。

一方で、Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)をどちらも低減することができ、両方向から、誘電損失を低減することが可能です。

図は、従来使用される低誘電FR4とSCB-PETのそれぞれを、誘電体基材として用いたときの、伝送特性をシミュレーションで比較した結果です。SCB-PETを使用することで、伝送損失の低減が期待できます。

「Smart Cellular Board」「SCB」は古河電気工業株式会社の登録商標です。

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