誘電率は、誘電体を使用した製品の電波透過性、伝送特性、絶縁性、等に関係する物理量です。この記事では、古河電工が開発した低誘電材料Smart Cellular Board(SCB)の、誘電特性についてご紹介します。

この記事でわかること

Smart Cellular Board(SCB)は、ベースとなる樹脂を高い発泡倍率で発泡させ、空気を多量に取り込むことで、材料全体の見掛けの比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低減し、低誘電化することができます。

Smart Cellular Board(SCB)の低誘電特性を生かした応用分野として、以下の用途等への適用が期待できます。

  • 次世代モバイル通信基地局
  • 次世代モバイル通信端末(スマートフォン/タブレット端末)
  • ウェアラブル機器
  • データセンタ
  • モーター絶縁紙

SCBが解決する誘電特性の課題

比誘電率(εr、Dk)を低減ソリッドな樹脂では実現困難な低誘電率を実現

誘電率は、外部からの印加電界によって材料内に誘導される電荷量の度合い(分極の度合い)の指標となる物理量です。

誘電率が小さいほど、材料内に誘導される電荷量も小さくなります。
誘電体の誘電率は、分極が発生しない真空の誘電率との比として規格化され、比誘電率(εr、Dk)として用いられることが多いです。

材料の比誘電率(εr、Dk)は、その材料を使用した電子部品等の電気特性に、影響を与えます。5G以降の次世代モバイル通信機器や、データセンタなどにおいて、通信周波数の高周波化に伴い、回路基板の伝送損失の増大や、レドーム(アンテナカバー)の電波透過性の担保が問題となっています。

また近年の電子機器の高集積化、高出力化に伴い、内部に配置される絶縁材料には、絶縁性の向上が望まれています。従来、これらの用途において、比誘電率(εr、Dk)が2~5程度のソリッドな樹脂材料が多く用いられていますが、性能向上のため、より低誘電率な材料の要望が高まっています。

しかし、ソリッドな樹脂材料で、2未満の比誘電率(εr、Dk)を達成することは困難でした。

これに対し、当社で開発したSmart Cellular Board(SCB)は、独自の発泡技術により、従来発泡が困難なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といった、高強度、高耐熱な樹脂を発泡させ、シートとしての剛性と、高い発泡倍率を兼ね備えた、低誘電発泡樹脂材料です。発泡倍率を高めることで、ベースとなるソリッドな樹脂に、比誘電率(εr、Dk)が小さい空気を多量に取り込み、材料全体の見掛けの比誘電率(εr、Dk)を大きく低減することが可能となります。このような発泡技術を生かした低誘電化により、Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)を実現することが可能となります。

誘電正接(tanδ、Df)を低減ソリッドな樹脂に対して低い低誘電正接を実現

誘電正接(tanδ、Df)は、誘電体に交流電界を印加した際の、電気的なエネルギー損失の度合いを表す指標です。

誘電正接が小さいほど、電気エネルギーの損失の度合いも小さくなります。材料の誘電正接(tanδ、Df)も、比誘電率(εr、Dk)と合わせて、その材料を使用した電子部品等の電気特性に、影響を与えます。前項でも挙げましたが、5G以降の次世代モバイル通信機器や、データセンタなどにおいて、通信周波数の高周波化に伴い、回路基板の伝送損失の増大や、レドーム(アンテナカバー)の電波透過性の担保が問題となっています。

これらの用途において、性能向上のため、比誘電率(εr、Dk)の低減だけでなく、より誘電正接(tanδ、Df)の低い材料の要望が高まっています。これに対し、当社で開発したSmart Cellular Board(SCB)は、ベースとなるソリッドな樹脂に、空気を多量に取り込むことで、材料全体の見掛けの比誘電率(εr、Dk)だけでなく、誘電正接(tanδ、Df)も、大きく低減することが可能となります。

このような発泡技術を生かした低誘電化により、Smart Cellular Board(SCB)は、発泡する前のソリッドな樹脂に比べ、非常に低い誘電正接(tanδ、Df)を実現することが可能となります。

図. 発泡による低誘電化の模式図
図. 誘電マップ

SCB技術の優位点と応用分野

良好な伝送特性

5G以降の次世代モバイル通信等に用いられる高周波基板においては、周波数fが大きくなることで、伝送損失が大きく増大するため、これを抑制する材料が求められます。伝送損失の成分の一つである誘電損失を低減する観点からは、基板の基材となる誘電体に、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)の低い材料を使用することが重要となります。

また伝送損失の別の成分となる導体損失を低減する観点からは、基板の基材となる誘電体に、比誘電率(εr、Dk)の低い材料を使用し、広い回路幅を担保することが重要です。特に、モバイル通信端末等、機器の薄型、軽量化が望まれる用途においては、内蔵される高周波フレキシブル基板(FPC)や高周波フレキシブルフラットケーブル(FFC)の基材として、比誘電率(εr、Dk)の低い材料を使用することで、基材を薄肉化した際も、回路の特性インピーダンス(注)の維持に伴う狭小化が抑制され、導体損失の増大を抑えることが可能です。

従来のソリッドな樹脂材料においては、比誘電率(εr、Dk)は樹脂種によりおおよそ決まるため、低減の難易度が特に高く、誘電正接(tanδ、Df)の低減に主眼が置かれることが多いです。

一方で、Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)をどちらも低減することが可能で、両方向から、誘電損失を低減することが可能です。またソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)を有するため、導体損失に対しても、大きな低減効果が期待できます。

Smart Cellular Board(SCB)の、非常に低い比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)による、誘電損失と導体損失の両方向からの伝送損失低減により、高周波基板の伝送特性を向上させることで、通信機器の消費電力削減が期待できます。

  • (注)
    特性インピーダンス:電気信号が伝送線路を流れる際の、電圧と電流の比です。電気信号の発信側と受信側を伝送線路がつなぐ場合、それぞれの特性インピーダンスが一致(整合)していないと、その境界で電気信号の一部が反射し、信号の損失や、反射した電気信号との干渉による信号の劣化が生じます。特性インピーダンスは、誘電体基材の比誘電率(εr、Dk)と厚さ、回路導体の厚さと幅によって決まり、特性インピーダンスを維持しながら誘電体基材の比誘電率(εr、Dk)を低くすると、回路導体の幅を広くすることができます。

応用例:

SCB技術の優位点 主な応用分野
良好な伝送特性
  • 次世代モバイル通信基地局
  • 次世代モバイル通信端末(スマートフォン、タブレット端末)
  • ウェアラブル機器
  • データセンタ

良好な電波透過性

アンテナ機器には、アンテナ内部を保護するための筐体となる、レドーム(アンテナカバー)が設置されます。アンテナが電波を受/発信するに当たり、電波はレドームを通過するため、レドームには優れた電波透過性が求められます。

レドームに電波を入射した際、入射した電波は、空気/レドーム界面での反射成分、レドーム通過時の吸収成分、透過成分に分かれます。電波透過性を改善するためには、反射成分と吸収成分を低減し、透過成分を増やすことが重要です。反射成分低減の観点からは、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、レドームと空気の特性インピーダンス(注)の差を小さくすることが重要です。

従来レドーム材料として用いられる、ソリッドな樹脂材料は、比誘電率(εr、Dk)が2~5程度と比較的高く、レドーム厚さ、レドームに対する電波の入射角、周波数、アンテナ基板とレドームの距離、等が変化した際、反射の影響を大きく受け、これらを考慮した煩雑な設計が必要となります。これに対し、レドームに比誘電率(εr、Dk)の低い材料を適用し、電波の反射を抑制することで、これらの影響を小さくし、設計の自由度を向上させることが可能になります。

また吸収成分低減の観点からは、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低減することが有効です。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)を有するため、反射成分を大幅な低減と、それに伴うレドーム設計の自由度向上が期待できます。

また誘電正接(tanδ、Df)も低減されているため、吸収成分の低減も可能で、反射成分と吸収成分の両方を抑えることによる、電波透過性の向上が望めます。

  • (注)
    特性インピーダンス:電磁波が伝搬する際の、電界と磁界の比です。電磁波が異なる2層の界面を通過する場合、それぞれの特性インピーダンスが一致(整合)していないと、その境界で電磁波の一部が反射します。特性インピーダンスは、√{(透磁率)/(誘電率)}によって求められます。空気や、一般的な磁性を持たない樹脂材料の透磁率は、≒1となるため、空気とレドーム材料の特性インピーダンスを近づけるためには、レドーム材料の誘電率を空気に近づける(低減する)ことが必要になります。

応用例:

SCB技術の優位点 主な応用分野
良好な電波透過性
  • 次世代モバイル通信基地局
  • 衛星通信用アンテナ
  • 車載ミリ波レーダー

良好な絶縁性

近年、機器の小型化、高出力化が検討される中で、それに用いられるモーター内の絶縁性の向上が求められています。モーターの絶縁が不十分だと、内部で短絡し、過電流によるモーターの異常発熱や損傷が発生する恐れがあります。

従来、モーターのスロット周辺の絶縁を担保するため、スロットに挿入する巻き線を保護するスロット絶縁や、スロット内で巻き線を分離する層間絶縁といった、シート状の絶縁材料が用いられていますが、絶縁の観点からは、比誘電率(εr、Dk)の低い材料を使用することが重要となります。

Smart Cellular Board(SCB)の持つ、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)により、絶縁材料の絶縁性向上が期待できます。

応用例:

  • モーター絶縁紙

古河電工のSCBが選ばれる理由

5G以降の次世代モバイル通信機器や、データセンタなどにおいて、通信周波数の高周波化に伴う電力消費量の増大が問題となっています。

当社では、この問題のソリューションとして、長年培ってきた樹脂発泡技術を基に、低誘電材料Smart Cellular Board(SCB)を開発しました。

Smart Cellular Board(SCB)は、当社が独自に開発したSCB発泡技術を用いて製造した、発泡樹脂材料です。SCB発泡技術を用いることで、従来発泡させることが困難であった、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といった、高強度、高耐熱な樹脂材料を、シート状の剛性を保ちながら、高い発泡倍率で発泡させ、低誘電化させることが可能となります。

特に、比誘電率(εr、Dk)については、従来のソリッドな樹脂材料では実現困難な、2未満を実現します。これにより得られる非常に低い比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)により、伝送特性が良好な回路基板、電波透過性に優れたレドーム(アンテナカバー)、絶縁性に優れた絶縁材料、等の実現が期待できます。

FAQ

Q
Smart Cellular Board (SCB)は、なぜ低い比誘電率(εr、Dk)、誘電正接(tanδ、Df)を実現できるのですか?
A
Smart Cellular Board (SCB)は、独自の発泡技術により、従来発泡が困難なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といった、高強度、高耐熱な樹脂を、高い発泡倍率で発泡させています。これにより、ベースとなるソリッドな樹脂に、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)が小さい空気を多量に取り込み、材料全体の見掛けの比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を大きく低減することが可能となります。
Q
比誘電率(εr、Dk)や誘電正接(tanδ、Df)が低いと、通信機器にはどのようなメリットがありますか?
A

比誘電率(εr、Dk)は、外部からの印加電界によって材料内に誘導される電荷量の度合い(分極の度合い)の指標となる物理量です。比誘電率(εr、Dk)を低減することで、回路基板の伝送損失の低減、レドーム(アンテナカバー)の電波透過性の向上、絶縁材料の絶縁性向上といった効果が望めます。また誘電正接(tanδ、Df)は、誘電体に交流電界を印加した際の、電気的なエネルギー損失の度合いを表す指標です。誘電正接(tanδ、Df)が低いほど、電気エネルギーの損失の度合いも小さくなります。

Q
Smart Cellular Board (SCB)の誘電特性は、どのような用途に活用できますか?
A

Smart Cellular Board (SCB)の低誘電特性は、次世代モバイル通信基地局・次世代モバイル通信端末(スマートフォン・タブレット端末)・ウェアラブル機器・データセンタ・モーター絶縁紙等、様々な用途への活用が期待できます。活用例は、下記リンクをご覧下さい。

「Smart Cellular Board」「SCB」は古河電気工業株式会社の登録商標です。

SCBの用途や開発のお悩みなど、お気軽にご相談ください