軽量、低誘電等の優れた特徴を持つ発泡樹脂材料ですが、一般的に、周囲に水分のある環境下では、気泡に水分が入り込み、機能・性質が変化してしまうイメージを持つ方も多いと思います。しかし実際には、材料によって、吸水挙動は異なります。この記事では、古河電工が開発した低誘電材料Smart Cellular Board(SCB)の、吸水性についてご紹介します。

この記事でわかること

Smart Cellular Board(SCB)の吸水率が小さくなるのは、気泡構造の制御により、独立気泡率を高めているためです。また材料表面のスキン層より、水と気泡が直接接触することを避けることで、より吸水を抑制します。

Smart Cellular Board(SCB)の低吸水性を生かした応用分野として、以下の用途等への適用が期待できます。

  • 次世代モバイル通信基地局
  • 次世代モバイル通信端末(スマートフォン/タブレット端末)
  • ウェアラブル機器
  • データセンタ
  • モーター絶縁紙

SCBが解決する吸水性の課題

吸水量を低減吸水による誘電特性の劣化を低減

発泡樹脂材料は、スポンジのような、気泡同士が連通した連続気泡構造となっていると、周囲に水や液体が触れた際に、気泡を通じてそれらが材料中に侵入していきます。

水は、極性が強く、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)が非常に高い物質です。このため、発泡樹脂材料を通信用材料や絶縁材料等として用いる場合に、材料中に水が浸入すると、材料全体の見掛けの誘電特性(比誘電率(εr、Dk)、誘電正接(tanδ、Df))が高くなり、機器の電気特性に悪影響を及ぼします。

発泡樹脂材料中への水の侵入を防ぐには、気泡同士が連通している連続気泡構造を減らし、連通していない独立気泡構造を増やすことが重要です。(図1)

図1

発泡樹脂材料の気泡構造は、発泡方法、材料組成、発泡条件、等によって、制御することが可能です。従来の発泡樹脂材料の中には、連続気泡と独立気泡の割合の指標となる、独立気泡率の低い材料も多く見られます。

また独立気泡率を意図的に高め、独立気泡の割合を高めた材料でも、ある程度の連続気泡を有している場合が多く、吸水の懸念があります。

一般的に、発泡樹脂材料の発泡倍率を高めようとすると、独立気泡率が低くなり易く、高倍率により得られる低誘電特性と、低吸水性を両立することは、技術的な難易度が高くなります。これに対し、当社で開発した低誘電発泡樹脂材料Smart Cellular Board(SCB)は、独自の発泡技術により、従来発泡が困難なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といった、高強度、高耐熱な樹脂を、独立気泡率を高めながら、高い発泡倍率で発泡させています。

発泡倍率を高めることで、非常に低い比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を持っており、特に比誘電率(εr、Dk)については、ソリッドな樹脂では実現困難な2未満を達成しています。これに加え、独立気泡率を高め、発泡樹脂材料で懸念される、気泡を通じた吸水を抑制することで、吸水による誘電特性の劣化を低減することが期待できます。

またSmart Cellular Board(SCB)は、材料表面にスキン層と呼ばれる非発泡の薄い層を形成させており、これによって、薄いシート状でありながら剛性を持つと共に、水と気泡が直接接触することを避け、より吸水を抑制することができます。

(図2)は、シート状の発泡体として一般的な発泡PPシート、Smart Cellular Board(SCB)、非発泡のソリッドな樹脂シートの吸水量を比較したグラフです。従来の発泡樹脂シートは、独立気泡率を高めたものでも吸水率が高いのに対し、Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂と同程度の低い吸水率を実現しています。

図2

吸湿量を低減吸湿による誘電特性の劣化を低減

樹脂材料は、発泡の有無に関わらず、周囲の湿気を吸収(吸湿)します。この吸湿によっても、材料中に水が取り込まれ、材料全体の見掛けの誘電特性(比誘電率(εr、Dk)、誘電正接(tanδ、Df))が高くなる懸念があります。

(図3)は、Smart Cellular Board(SCB)と、非発泡のソリッドな樹脂シートの吸湿量を比較したグラフです。Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂と同程度の低い吸水率を示します。このため、周囲環境からの吸湿による誘電特性の劣化を、低減することが期待できます。

図3

SCB技術の優位点と応用分野

良好な伝送特性を維持

5G以降の次世代モバイル通信等に用いられる高周波基板においては、周波数fが大きくなることで、伝送損失が大きく増大するため、これを抑制する材料が求められます。伝送損失を低減するにあたり、基板の基材となる誘電体の観点からは、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)の低い材料を使用し、使用時にその特性を維持することが重要となります。

従来のソリッドな樹脂材料においては、比誘電率(εr、Dk)は樹脂種によりおおよそ決まるため、低減の難易度が特に高く、誘電正接(tanδ、Df)の低減に主眼が置かれることが多いです。

一方で、Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)をどちらも低減することが可能で、両方向からの、伝送損失低減が期待できます。特に比誘電率(εr、Dk)については、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い値を実現しています。またSmart Cellular Board(SCB)は、独自の発泡方法により低吸水、低吸湿を実現しており、低い比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を維持することで、良好な伝送特性を維持することが期待できます。これらの効果により、高周波基板の伝送特性を向上させることで、通信機器の消費電力削減が期待できます。

応用例:

SCB技術の優位点 主な応用分野
良好な伝送特性
  • 次世代モバイル通信基地局
  • 次世代モバイル通信端末(スマートフォン、タブレット端末)
  • ウェアラブル機器
  • データセンタ

良好な電波透過性を維持

アンテナ機器には、アンテナ内部を保護するための筐体となる、レドーム(アンテナカバー)が設置されます。アンテナが電波を受発信するに当たり、電波はレドームを通過するため、レドームには優れた電波透過性が求められます。レドームの電波透過性を向上させるためには、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を低減することと、レドームとして使用する際に、それらの特性を維持することが重要です。

Smart Cellular Board(SCB)は、発泡技術を利用することで、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)をどちらも低減することが可能です。特に比誘電率(εr、Dk)については、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い値を実現しており、レドーム厚さ、レドームに対する電波の入射角、周波数、アンテナ基板とレドームの距離、といった、電波透過性に影響を及ぼす因子の影響を低減することで、レドーム設計の自由度向上が期待できます。またSmart Cellular Board(SCB)は、独自の発泡方法により低吸水、低吸湿を実現しており、低い比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を維持することで、良好な電波透過特性を維持することが期待できます。

特に、屋外に設置されるタイプの機器においては、レドームに雨や雪等で直接水が接触するシーンや、高温多湿環境に曝されるシーンも多く、低吸水、低吸湿であることは、大きなメリットになります。

応用例:

SCB技術の優位点 主な応用分野
良好な電波透過性
  • 次世代モバイル通信基地局
  • 衛星通信用アンテナ
  • 車載ミリ波レーダー

良好な絶縁性を維持

近年、機器の小型化、高出力化が検討される中で、それに用いられるモーター内の絶縁性の向上が求められています。モーターの絶縁が不十分だと、内部で短絡し、過電流によるモーターの異常発熱や損傷が発生する恐れがあります。

従来、モーターのスロット周辺の絶縁を担保するため、スロットに挿入する巻き線を保護するスロット絶縁や、スロット内で巻き線を分離する層間絶縁といった、シート状の絶縁材料が用いられていますが、絶縁の観点からは、比誘電率(εr、Dk)の低い材料を使用し、使用中にその特性を維持することが重要となります。

Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂で実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)を実現しており、絶縁材料の絶縁性向上が期待できます。またSmart Cellular Board(SCB)は、独自の発泡方法により低吸水、低吸湿を実現しており、低い比誘電率(εr、Dk)を維持することで、良好な絶縁性を維持することが期待できます。

応用例:

  • モーター絶縁紙

古河電工のSCBが選ばれる理由

5G以降の次世代モバイル通信機器や、データセンタなどにおいて、通信周波数の高周波化に伴う電力消費量の増大が問題となっています。

当社では、この問題のソリューションとして、長年培ってきた樹脂発泡技術を基に、低誘電材料Smart Cellular Board(SCB)を開発しました。Smart Cellular Board(SCB)は、当社が独自に開発したSCB発泡技術を用いて製造した、発泡樹脂材料です。

SCB発泡技術を用いることで、従来発泡させることが困難であった、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といった、高強度、高耐熱な樹脂材料を、独立気泡率を高めながら、高い発泡倍率で発泡させることが可能となります。

これにより、従来のソリッドな樹脂材料では実現困難な、2未満の非常に低い比誘電率(εr、Dk)と、非常に低い誘電正接(tanδ、Df)を実現するとともに、吸水、吸湿環境下においても、その性能を維持することが期待できます。このため、Smart Cellular Board(SCB)により、伝送特性が良好な回路基板、電波透過性に優れたレドーム(アンテナカバー)、絶縁性に優れた絶縁材料、等の実現が期待できます。

FAQ

Q
SCBはなぜ吸水しにくいのですか?
A
独自の発泡方法により、気泡構造を制御し、独立気泡率を高めているためです。また材料表面に、スキン層と呼ばれる非発泡の薄い層を形成させており、これによって、水と気泡が直接接触することを避け、より吸水を抑制することができます。
Q
発泡材料が吸水すると、どのような問題がありますか?
A

水は、極性が強く、比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)が非常に高い物質です。このため、発泡樹脂材料を通信用材料や絶縁材料等として用いる場合に、材料が吸水すると、材料全体の見掛けの誘電特性(比誘電率(εr、Dk)、誘電正接(tanδ、Df))が高くなり、機器の電気特性に悪影響を及ぼします。

Q
SCBはどのような用途に適していますか?
A

Smart Cellular Board(SCB)の低誘電特性は、次世代モバイル通信基地局。次世代モバイル通信端末(スマートフォン/タブレット端末)、ウェアラブル機器データセンタモーター絶縁紙等、様々な用途への活用が期待できます。活用例は、下記リンクをご覧下さい。

「Smart Cellular Board」「SCB」は古河電気工業株式会社の登録商標です。

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