レドームとは
アンテナやセンサーのような電波を発信する機器の筐体には、電波透過性が求められます。このような筐体を、レドーム(アンテナカバー)と呼びます。レドーム(アンテナカバー)には、アンテナを保護する保護筐体(エンクロージャー)としての機能と、扱う電波に対する良好な電波透過性が求められます。場合によって、筐体の電波透過性が求められる部分だけをレドーム(アンテナカバー)とし、その他の部分は金属部材等とするケースも多いです。
AI技術やIoT技術の発展に伴い、身の回りの家電製品や電子機器、自動車などの高機能化が進んでおり、これらの機器には、電波を利用した無線通信機器やセンサーが組み込まれる機会が増えています。センサーとしては、周囲環境の影響を受けづらく、周囲の正確な情報を得ることが期待できる、ミリ波レーダーやミリ波センサーが検討される機会が増えてきました。このとき、機器には、電波を受信・発信するための、レドーム(アンテナカバー)部分を設ける必要があります。
機器全体の外観やサイズを維持しつつ、高機能化するためには、機器内の狭い範囲に通信機器やセンサーを組み込み、レドーム(アンテナカバー)部分を設けることが重要になります。特に、テレビや屋内アンテナのような薄型機器の場合、厚さ方向の狭い範囲に、通信機器やセンサーを収める必要があります。この際、通信機器やセンサー内に配置されるアンテナ基板と、レドームとの距離も、近づける必要があります。
薄型通信機器用レドームの課題・ご要望
アンテナ/レドーム間距離の担保
前述の通り、レドーム(アンテナカバー)には、扱う電波を良好に透過することが求められます。レドーム(アンテナカバー)に電波を入射すると、入射成分は、反射成分、吸収成分、透過成分の3つに分かれます。そのため、反射成分と吸収成分を減らすことで、透過成分を増やすことができます。
電波の反射成分を減らすためには、空気とレドーム材料の誘電率の差を小さくし、特性インピーダンス(注)を近づけることが重要です。すなわち、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を1に近づけるほど、反射を抑制することができます。また更に、レドーム材料の誘電正接(tanδ、Df)を小さくすることで、吸収も抑制することができます。
しかし、従来の無線通信用アンテナのレドーム(アンテナカバー)には、ポリカーボネート(PC)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)等の、ソリッドな樹脂材料が使用されることが多く、これらの材料は比誘電率(εr、Dk)が比較的大きいため、空気とレドーム材料の界面において反射が生じ易いです。反射が生じた場合、透過成分が減少するだけでなく、機器内で、反射波とアンテナ基板から放射された電波との干渉が起こり、アンテナ/レドーム間距離に応じた電波透過性の変動が生じます。ここで、前述のように、薄型機器を高機能化する場合、厚さ方向の狭い範囲の中に、通信機器やセンサーを組み込む必要があるため、通信機器やセンサーとレドームの間の距離は、狭くできることが好ましいです。
しかし、従来のソリッドな樹脂を用いた通信機器用レドームは、その表面で電波が比較的反射され易く、電波透過性を担保しようとすると、アンテナ/レドーム間距離を、特定の距離に収めることが必要になります。この場合、機器に通信機器やセンサーを内蔵するためには、特定の距離分のスペースが必ず必要となるため、機器の薄型化に対し、制約となります。また、アンテナ/レドーム間距離に対して電波透過性が大きく変動する場合、組付け公差等で距離が設計に対してずれた場合に、電波透過性が大きく低下するリスクがあります(下図)。
更に、反射した電波は、機器内での干渉だけでなく、アンテナ基板に再受信されることでノイズとなり、通信品質の低下にもつながります。
アンテナ/レドーム間距離の制約を抑制するためには、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低くし、電波の反射自体を抑制することが重要です。
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(注)
特性インピーダンス:電磁波が媒質中を伝搬する際の、電場と磁場の比率です。2つの物質の特性インピーダンスの差が小さいほど、その界面における電磁波の反射が起こりづらくなります。
入射角度による電波透過性の変化
従来の無線通信用アンテナのレドーム(アンテナカバー)は、ソリッドな樹脂材料が使用されることが多く、これらの材料は比誘電率(εr、Dk)が比較的大きいため、空気とレドーム材料の界面において反射が生じ、電波透過性が低下します。この対策として、レドーム(アンテナカバー)の厚さを、使用する電波の波長を考慮した値に調整し、レドーム材料の表面と裏面における2つの反射波を重ね合わせ、打ち消すことで、見掛け上の反射成分を減らし、電波透過性を担保します。下図は、これを示した模式図です。
a)反射波1と2の位相が180°ずれる場合(逆相)
b)反射波1と2の位相が一致する場合(同相)
空気からレドームに電波を入射する場合、入射側のレドーム表面と、その裏面のそれぞれにおいて、反射が生じます。反射の際、空気からレドーム材料に入射して生じる反射波1では、比誘電率(εr、Dk)が低い側から高い側に入射する関係で、反射波の位相は入射波から180°ずれます。
一方、レドーム材料から空気に入射して生じる反射波2では、比誘電率(εr、Dk)が高い側から低い側に入射するため、反射波と入射波の位相は同じになります。
またレドーム材料中を通過中の電磁波の波長は、比誘電率(εr、Dk)の影響で短縮され、空気中を伝搬する際の波長(λ)に対し、式1で表される誘電体中の波長(λ’)に変化します。
- λ’:誘電体中における電磁波の波長
- λ:空気中における電磁波の波長
- εr:比誘電率(Dk)
理論上は、レドーム材料の厚さ(t)を式2とすることで、反射波1と2が重ね合わせで打ち消し合い、見掛け上、反射が生じていない状態となるため、電波透過性が向上することになります。
- t:レドーム厚さ
- n:整数
また逆に、レドーム材料の厚さ(t)を式3とすると、反射波1と2が重ね合わせで強め合い、見掛け上の反射成分が強まるため、電波透過性が低下することになります。
通信機器の通信範囲や、センサーの検知範囲を広域化するためには、アンテナから様々な角度で電波を発信/受信する必要があります。式2を利用して電波透過性を担保する場合、発信角度が変化すると、実効的なレドームの厚さが変化するため、角度によって電波透過性が変化します。(下図)
この対策として、レドーム形状変更による電波のレドームへの入射角度の調整、レドームの厚さの局所的な調整といった、面倒な調整や形状の制約が必要になります。この問題を解決するためには、電波透過性の向上に式2を利用するのではなく、レドーム材料の比誘電率(εr、Dk)を低減し、空気とレドームの界面において電波が反射すること自体を、抑制することが重要です。
Smart Cellular Board(SCB)活用の効果
アンテナ/レドーム間距離の自由度の向上
Smart Cellular Board(SCB)は、古河電工の独自技術であるSCB発泡技術を利用することで、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった、従来発泡が難しい耐熱性樹脂の発泡を実現しました。
図は、ソリッドな樹脂材料とSmart Cellular Board(SCB)を比較した、誘電マップです。Smart Cellular Board(SCB)は、発泡により、母材となる樹脂に空気を取り込むことで、母材の持つ比誘電率(εr、Dk)と誘電正接(tanδ、Df)を空気に近づけ、低減することが可能です。特に、比誘電率(εr、Dk)においては、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満を実現しています。
このため、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面における電波の反射が抑制され、アンテナ/レドーム間距離の変化による電波透過性の変動が抑制されます。(下図)
また、式2の関係を利用しなくとも良好な電波透過性が得られるようになります。更に、Smart Cellular Board(SCB)は、気泡構造を独立気泡とすることで、従来の発泡素材で懸念される気泡内への水の侵入を防ぎ、吸水による電波透過性の低下を抑制することができます。これにより、機器の薄型化と、良好な電波透過性を両立することが可能となります。
入射角範囲全体での電波透過性の担保
Smart Cellular Board(SCB)は、ソリッドな樹脂では得ることが難しい、2.0未満の比誘電率(εr、Dk)を実現しています。これにより、Smart Cellular Board(SCB)をレドームとして用いることで、空気とレドームの界面における電波の反射が抑制され、式2の関係を利用しなくとも良好な電波透過性が得られるようになります。その結果、 アンテナから様々な角度で電波を発信/受信する(実効的なレドームの厚さが変化する)場合でも、広い角度範囲全体で、良好な電波透過性を担保できます。
「Smart Cellular Board」「SCB」は古河電気工業株式会社の登録商標です。
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