「毛細管現象」を活用して、大量の熱を適切に放熱

モビリティ エコロジー

高機能化に比例して増大する、モバイル端末の発熱を軽減

スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末は、モデルチェンジのたびに高機能化が進み、CPUやグラフィックチップが発する熱も増大している。そのため、薄型化・軽量化という要求を同時に満たしながら、発熱を適切に処理する手段が求められている。その対策として有効なのが、古河電気工業が得意とする薄型ヒートパイプであり、新たに開発に成功した「ベーパーチャンバ」だ。

ヒートパイプは、銅管内に作動液を真空密閉したシンプルな構造で、両端部の温度差による対流で作動液を循環させて熱を移動させる放熱部品。CPUなどの発熱源と冷却用のフィンをヒートパイプで結び熱を移動させることで「放熱」する用途、またホットスポットと呼ばれる一部の高熱ポイントをヒートパイプで拡げることで人が触れる温度まで「均熱」する用途、などで使われる。電力を使わずに作動することから、パソコンやゲーム機などさまざまな電子機器に採用されてきた。

このヒートパイプには、「毛細管現象」を利用している。「毛細管現象」とは、管内表面に対する液体の付着力と表面張力との作用で、管内の液体が上昇・下降すること。植物が根から水を吸い上げたり、ティッシュペーパーが水を吸収したりできるのは、この現象を利用している。古河電気工業は、長年培ってきた電子機器向け細径ヒートパイプの製造技術を活かし、銅管内部に金属粉を焼結させて「毛細管構造」を実現。焼結した金属の強い吸収力を利用することで、低い場所から高い場所に水を移動できるようにしている。

この焼結金属粉を使ったヒートパイプは製品の傾きによらず、放熱・均熱可能という特長を持っている。傾いた状態で利用する場合、発熱源が冷却部よりも上部に位置することがあるため、発熱源に対して重力に逆らって作動液を供給しなければならない。銅管内部に細溝を切った従来構造ではこの能力が不足していたが、焼結金属粉構造を実現できたことにより、さまざまな向きで使われるスマートフォンやタブレットへの搭載が可能となったのだ。

さらなる薄型化のニーズに応える「ベーパーチャンバ」を開発

薄型のモバイル端末に搭載される場合、ヒートパイプを扁平して製品化しているが、複雑な内部構造を持った丸型管を扁平するため薄型化には限界がある。一方で、ユーザーからはさらなる薄型化が求められており、このニーズに応えるために開発を進めていたのが超薄型の「ベーパーチャンバ」だ。「ベーパーチャンバ」は、いわば面型・板型のヒートパイプであり、金属板2枚の間に毛細管現象を起こす特殊構造を作り、それらを貼り合わせたもの。厚さを0.5mm以下にすることができるほか、面積が広くスマートフォンの均熱用途で非常に高い能力を発揮できる。このことから、これからのモバイル端末に必要不可欠な重要モジュールと期待されている。

超薄型ヒートパイプ「ベーパーチャンバ」開発時のポイントと今後の展開について、古河電気工業のサーマル・電子部品事業部門営業・技術部開発課長、稲垣義勝は次のように語った。
「求められる厚さは0.5mm以下、シャープペンシルの芯と同等以下。その中に熱を移動させる『毛細管構造』をきちんと作り上げ、その構造が真空状態の場合にも維持できることが、開発のポイントでした。開発課メンバーとともに、構造を考えシミュレーションし、試作して評価する、という作業を地道に繰り返しました。試作評価を継続しつつ、関連する文献を読みあさっていたときに『これは!』というアイデアがひらめき、導入したところお客様の求める性能を満たし、長期信頼性を格段にアップさせる目途を付けることができました。このときはうれしいよりも『ホッ』としたというのが実感でした。この『ベーパーチャンバ』は、これから量産ステージに入りますが、より多くのお客様に使用していただき、『モバイル端末には欠かせない』と言われる部品に育てていきたいと考えています」